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Mission.11「予告状 背中に蝶を残して」

客室の扉を、静かに開く。


外はすでに騒がしくなっていた。


警報が鳴り響き、慌ただしい足音が廊下を行き交っている。


「……いい?静かにね」


モワは小さく囁き、イフリートの手を引いた。


イフリートはこくりと頷く。


一歩、廊下へ踏み出したその時、


「お前!どうやって――」


鋭い声が飛んだ。


振り向けば警備の男が、腰の銃へ手を伸ばそうとしていた。


「……ちょっと静かにしてなさい」


モワはため息交じりに呟いた。


懐から小さな香水瓶を取り出し、迷いなく吹きかける。


「うわあああ!目がああ!」


男は両目を押さえて、うずくまってしまった。


その姿を一瞥だけして、モワはすぐに背を向ける。


「……行くわよ」


イフリートの手を引き、


「吸っちゃダメよ」


と軽く振り返り、ウインクする。


「……もう少しでエスポワールに会えるから」


その言葉に、イフリートの胸が少しだけ軽くなる。


「モワさん……ありがとう」


モワは一瞬だけ足を止めたが、すぐに顔を逸らした。


「今さら何言ってんのよ」


ぶっきらぼうに言う。


「礼なんて、あとでまとめて聞くわ」


そう言いながらも、その手は少しだけ強く握られていた。


廊下を迷いなく、なるべく早く進むが、


「いたぞ!」


怒号と共に、前方から複数の男たちが現れる。


銃を構え、一斉に狙いを定め、イフリートの体が強張る。


モワは一歩前に出て、庇うように立った。


「……ほんと、しつこいわね」


その瞬間、ヒュン、と空気を裂く音がしたと思うと、男たちの銃が弾き飛ばされた。


「なっ――!?」


床に落ちるトランプ。


そして、軽い笑い声。


「はは、やっぱり大騒ぎじゃないか」


影の中から現れたのは――ルナールだった。


いつもの軽薄な笑みを浮かべている。


「ルナール……!」


モワが鋭く睨む。


「何しに来たのよ」


「助けに来てあげたんだよ」


ルナールは大袈裟に、肩をすくめる。


「……信用できると思う?」


「思わなくていいよ」


あっさりと返し、そして少しだけ視線を細めた。


「たださ」


トランプを指で弾くと、


「ノアのやり方、飽きちゃって」


と軽い口調で笑った。


けれどその奥には、どこか冷めたものがあった。


モワは何も言わなず、ただ睨んだまま。


「それより――」


イフリートとモワを交互に見ると、


「君たちの方が、よっぽど面白そうだ」


と、一歩前に出た。


「だから今回は、こっちに乗ることにした」


「……気まぐれね」


「そうだよ」


その後ろで、男たちが再び動き出し、ルナールはため息をついた。


「ほら、まだ来る」


トランプを構えると、


「さっさと行こう」


カードが放たれた。


正確に武器を弾き、動きを封じる。


モワはナイフを抜き、無駄のない動きで敵を制圧する。


イフリートはその背を追う。


やがて、通路の先に出口が見え、重い扉の向こうから、夜の風が流れ込んでくる。


「……もう少しよ」


モワが言うと、ドン、と大きな爆音がし、船が激しく揺れた。


「さすが怪盗くん」


モワは一瞬だけ目を伏せ、


「……無事でいなさいよ」


と小さく呟き、そして扉を押し開ける。


夜の海に月明かりが輝いてる。


そのすぐ下に、小型船が横付けされていた。


「用意いいでしょ?」


ルナールが笑う。


「……あんたにしてはね」


「褒め言葉として受け取っておくよ」


モワはイフリートの手を引く。


「行くわよ」


「……はい」


二人は小型船へ乗り込むと、イフリートは振り返った。


巨大な船のどこかに、エスポワールがいる。


「……大丈夫、かな……」


イフリートの不安が漏れると、モワは視線を上げた。


「大丈夫よ。あいつ、しぶといから」


それは信じている声だった。


ルナールがロープを外し、船に飛び乗る。


「じゃ、出るよ」


エンジンが唸ると、小型船がゆっくりと離れていく。


距離が、開いていき、警報も爆発音も、次第に遠ざかる。


モワはイフリートの手を握り直した。


「……先に帰りましょ。私たちの場所に」


イフリートは頷く。


小さな船は、夜の海を滑るように進む。


やがて見えてくる、街の灯り。


帰る場所がある温もりに、少しだけ心が緩む。


だが背後には、まだ一つの影が残っている。


月夜の船の上で、舞い続ける存在。


触れられず、捕まらず、ただ自由に舞う蝶。


その背中に、それを残したまま。


三人を乗せた小型船は、静かに夜を抜けていった。


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