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Mission12.「予告状 月下の終幕」

夜の風が強く吹き抜け、揺れる水面。


月明かりに照らされたプールサイドで、二つの影が向かい合っていた。


エスポワールは指先でトランプを弄びながら、くすりと笑う。


「どうする?」


カードを回し、


「逃げたいなら、取引してあげてもいいけど」


と軽い口調だ。


だが、その目は冷たい。


ノアはゆったりとグラスを傾けた。


「話だけでも聞こうじゃないか」


それでも余裕の笑みだった。


エスポワールは肩をすくめる。


「簡単な話さ」


カードの動きを止め、


「君が土地開発をやめてくれればいい」


と、一瞬の沈黙が走る。


だが、


「……はは」


ノアが笑い出す。


「あぁ、そういう事か」


ゆっくりと視線をエスポワールに向ける。


「お前は施設が大事か」


空気が、わずかに張り詰める。


「それが無くなると困るわけか?だから付きまとってきて、おまけに“商売道具”まで――」


パンッ、と乾いた銃声が、夜を裂いた。


ノアの頬を弾丸が掠め、血が一筋流れた。


エスポワールの手には銃が握られ、その銃口から、煙が立ち上る。


「……黙れ」


その声には、怒りが滲んでいた。


ノアは指で血を拭い、くすりと笑う。


「図星か?」


挑発するように言う。


「可哀想に。"商売道具"が帰れる場所を守りたかったのか?」


「……勘違いするな。あの子は“可哀想”なんかじゃない。君が、あの子の場所を奪ったんだ」


その瞬間、ノアの目がわずかに細まった。


「……そうか」


グラスを床に置き、ゆっくりと水から上がる。


滴る水が月光に光る。


「ならば」


ノアが指を鳴らすと、背後から銃声が鳴った。


エスポワールは即座に身を捻り、弾丸をかわす。


「甘いね」


トランプを投げると鋭く飛び、男の手から銃を弾き飛ばす。


だが次々と現れる護衛たち。


包囲され、銃口が一斉にエスポワールの頭に向く。


「それで囲んだつもり?」


エスポワールが笑ったと思うと、夜空を散るようにカードが舞う。


連続する金属音が鳴り、銃が弾かれ、悲鳴が上がる。


その隙に、エスポワールは一気にノアへ距離を詰めた。


ナイフを抜き、鋭い一閃が。


ノアはそれを、いつの間にか手にしていたナイフで、紙一重で受け止めると、火花が散る。


「ほう。やるじゃないか」


「どうも」


刃と刃がぶつかり、連続する攻防戦。


互いに一歩も引かない。


ノアが蹴りを放つが、エスポワールは後方へ跳び、距離を取る。


そのままトランプを放つが、ノアは腕で弾く。


「小細工が多いな」


「怪盗だからね」


お互い、呼吸は乱れていない。


再び距離が詰まり、拳と刃が交錯する。


月光の中で、二人の影が激しくぶつかり合う。


その戦いは、もはや“遊び”ではなかった。


ノアの目から余裕が消え、エスポワールの笑みも、薄れていく。


互いに理解していた。


相手が、本気だと。


そして刃と拳が交差し、互いの喉元で止まる。


動けば、どちらかが死ぬ距離。


風の音だけが響く中、やがてノアが口を開いた。


「……面白い。ますます気に入った」


「光栄だね」


その時、遠くからサイレンの音が響いた。


夜の海に、不釣り合いな音だ。


その音を聞き、ノアの動きが一瞬止まる。


「……何だ?」


眉をひそめると、船の下層から慌ただしい声が響いてきた。


「警察だ!警察が来たぞ!」


足音が増え始め、明らかな混乱が巻き起こっていた。


「……っ」


ノアの表情が変わり、それは初めて見せる、焦りだった。


「馬鹿な……どうやって――」


その一瞬の隙を付き、エスポワールの目が細くなる。


「――遅いよ」


ノアが慌ててナイフを振るうが、その軌道はわずかに乱れていた。


エスポワールはそれを見逃さず、すり抜けるように懐へ入り込み、ナイフの柄で、ノアの首元を打ち据えた。


「っ――!」


鈍い音が響き、ノアの体がぐらりと揺れ、そのまま力を失い、倒れ込んだ。


エスポワールは小さく息を吐き、


「……やれやれ」


と、軽く肩をすくめた。


そして、倒れたノアの手首を取り、近くの柱へと縛りつける。


これ以上逃げられないよう、しっかりと。


その時階段の方から、複数の足音が近付いてきた。


エスポワールは振り返り、夜の海を一瞥する。


遠くの方に、灯りが近づいてくる船影が。


エスポワールは帽子を軽く押さえ、


「それじゃあ、ヒーローさん。あとは頼んだよ?アデュー」


そのまま暗い海へと身を投げた。


水音が夜に溶けると、警察がなだれ込んできた。


「動くな!」


ライトが照らすその先には――拘束されたノアの姿が。


月の下、ショーは静かに幕を下ろした。


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