第4話 狂乱の宴
クリストハルトは、すでにメルヘムの手のひらの上で転がされている。
「私が国を倒すために蜂起するのはいいが大儀がないぞ。国が魔王に操られていると言っても理解できないものが多いだろう。」「セベク神はクリストハルト様の味方です。心配はいりません。」
「私はセベク神を信仰しているが・・・・・」「クリストハルト様はセベク神のために戦うのですよね。」
「そうだ、命は惜しくないぞ。」「そのようなクリストハルト様にセベク神は恩恵をお与えになるでしょう。」
「恩恵を・・・」「そうです。神の啓示です。」
「私に覚えはないぞ。」「気づいておられないのですか。」
「セベクよ。お許しを」「クリストハルト様は、国の闇に気づかれた。脳裏に言葉が浮かんだのではないですか。「魔王の傀儡の国を倒せ」と」
「そうだ、気が付かなかったが、確かにそうだ。私は神の啓示を受けたのだ。」「そうです。神の御心を実行するのです。」
「メルヘム殿、礼を言うぞ。これから忙しくなるぞ。」
メルヘムは思い通りになり、ヴァルハラ王国は戦乱で国内が乱れることになると考え悦に入る。
屋敷では、試合の打ち上げに近隣の貴族を集めて宴を催すことになっていた。大広間には食事が並べられ準備が進められている。
そして、時間が迫り、貴族たちが集まって来る。宴の主役は優勝した団長である。団長は貴族たちから握手を求められ、ほめたたえられる。
クリストハルトが部屋に入ると皆が注目する。クリストハルトは部屋の中を笑顔で歩き団長の横に立つと話し始める。
「今日の試合で、我々の兵が有能であることが判ったと思う。決して国王の兵に劣ってはいない。」
クリストハルトの言葉に皆がざわつく。話は終わらない。
「みなさんが承知のように国は通行料を廃止するだろう。国は次に何をするかわかりますか。」
問いかけに答える者はいない。皆、突然の話の内容に戸惑っている。
「みなさんはまだ気づかれていないようだ。国は減税をします。」「そんなことをしたら、我々貴族に死ねというようなものだぞ。」
「その通りです。国がこのような無慈悲な政策をとるのには理由があります。魔王ロックに操られているのです。」「そんなバカな話があるか。」
「証拠にバシュラール魔王国では通行料廃止に続いて減税をしています。」「本当に魔王に操られているのなら、セベク神が黙っていないぞ。」
「その通りです。私は神の啓示を受けました。」
貴族たちだけでなく使用人たちも仕事を忘れて、ざわざわと話し出す。そのうち誰かが大声で言う。
「クリストハルト様、神は啓示で何とお話になったのだ。」「教えてください。セベク神は何を語られた。」
クリストハルトが右手を上げると皆は静まり返る。
「セベク神は私に命じました。魔王の傀儡の国を倒せ。」「「「おおっ」」」
「私は、魔王の傀儡を倒すために命をかけます。」「私もお力を貸します。」「私も戦います。」「私も共に命をかけます。」
その場にいた貴族たちは熱に侵されるようにクリストハルトに協調していく。団長はこの状況を見て血の気が引いて来る。メルヘムが団長に声をかける。
「あなたは戦わないのですか。」「勝てるはずがない。騎士団長はあのアンドレアスだぞ。それに国王は勇者だ。他にも勇者がいる。」
「主を見捨てるのですか。」「そんなことはできない。だが、行先には死が待っているぞ。」
「団長にはこれを差し上げましょう。」「なんだこの剣は、普通の剣ではないな。」
「その通り、魔剣グラムントと申します。」「魔剣だと。」
「はい、切り殺した人の命を吸って力に変えます。」「・・・・・」
「効果は切り結んだ相手を切り裂く力があります。」「こんな剣は邪道だ。」
「今から戦うのですよ。この魔剣は役に立ちますよ。」「私に騎士としての誇りを捨てろというのか。」
「勝って奥様の所に戻らなくてどうするのです。」「確かにそうなのだろうが・・・」
「相手は魔王の息がかかった軍勢です。負ければ、アダルベルト領は蹂躙されます。」「分かった。魔剣を借りよう。」
「その剣があれば。アンドレアスにも勝てますよ。」
団長は魔剣グラムントを手にする。団長は魔剣の刀身を見て口元に笑みを浮かべる。刀身にメルヘムの姿が写り込んでいる。
「グラムントは魔力の多い者を切り殺せばより大きな力を得られるよな。」「確かにそうです。よくわかりましたね。」「グラムントが教えてくれたよ。」
団長はいきなりメルヘムに切りかかる。油断していたメルヘムはぎりぎりでかわす。
「団長、何をするのですか。」「我々の勝利の糧になってくれ。」
メルヘムを袈裟切りにする。メルヘムはそのまま床に倒れ込む。団長から笑みが消える。
「逃がしたか。」
床には使用人の死体が転がっている。メルヘムは使用人を幻術で自分に入れ替えて屋敷から逃げ出していた。




