第3話 メルヘムの術中
ルビーをめぐる試合の話はクリストハルトの耳まで届く。試合は闘技場で領主クリストハルトと妻のアルマが観覧する盛大なものになる。クリストハルトがメルヘムに言う。
「このところ通行料廃止の話で憂鬱になっていたところだ。良い余興を用意してくれた。」「通行料が廃止されるのですか。」
「商人には朗報だろうが貴族にとっては死活問題だ。」「私は貴族あっての宝石商です。」
「そうか、良い知恵はないか。」「協力してくれる貴族はいるのですか。」
「もちろんだ。これでも大貴族だぞ。声を上げれば多くの貴族が協力してくれるぞ。」「分かりました。ここでは人目がありますから、後程話しましょう。」
メルヘムは作戦にちょうど良い貴族がかかったと思う。
アダルベルトの私兵の試合は、腕に覚えのある兵が50人出場する。50人は対抗戦を繰り広げる。1戦目で25人になる。
メルヘムは出場した兵のレベルが思っていたよりレベルが高いので評価を上げる。メルヘムがクリストハルトに言う。
「兵たちのレベルは高いですが、団長のレベルが抜き出ていますね。」「分かるのか。団長はアダルベルト領で最強の騎士だ。国内でも屈指の強さだろう。」
「そうでしたか。勝ちは団長のようですな。」「まあ、若い者も腕を上げているからわからんがな。」
団長はその後も危なげなく勝ち上がって行く。そして決勝戦になる。クリストハルトが説明する。
「団長の対戦相手は最近腕を上げてきて次期団長になるのではと言われている者です。」「それは楽しみですね。」
試合が始まると対戦者は積極的に攻めていく、団長は軽く剣筋を変えてかわしている。メルヘムは剣技は団長がはるかに上だと判断する。対戦者が激しく動いているのに対して団長は最小限の動きをするだけである。
対戦者の息があがってくる。団長はこの時を待っていたとばかりに攻め始める。団長の打ち込みに受ける対戦者がふらつく。対戦者の構えに隙が出来る。
団長は下段から切り上げる。防御しようとした対戦者の剣が弾き飛ばされる。団長は対戦者に剣を突き付けて勝利を手にする。
メルヘムは優勝した団長にルビーを手渡す。
「団長、素晴らしい腕です。国内に敵がいないのではないですか。」「いいえ、アンドレアスがいます。奴には勝てないでしょう。」
「これから、越えてしまえばいいのです。」「私がアンドレアスに勝てるのですか。」
「それは訓練次第です。」「そうですね。私もまだまだです。」
メルヘムは団長を利用しようと考える。試合の後、メルヘムはクリストハルトの執務室に呼ばれる。
「メルヘム、通行料廃止の件だが良い案があるのだな。」「国は考えを変えると思いますか。」
「通行証廃止は反対しても強行されるだろう。」「通行料廃止の次は、減税が待っていますよ。」
「バカな、税を減らすだとありえん。」「いいえ、バシュラール魔王国で起きていることです。」
「そんなことをしたら貴族は生きていけないぞ。」「ヴァルハラ王国は、バシュラール魔王国の後を追おうとしている。そうではないですか。」
「確かに、バシュラール魔王国も最初は通行料を廃止したな。」「そうです。賢明なクリストハルト様ならお判りでしょう。」
「まさかな、そんなはずはない。セベク神がお許しにならないぞ。」「何を否定されようとしているのですか。」
「いいや、考えるのも恐ろしい・・・」「お答えは出ているでしょう。」
「しかし・・・」「国は魔王ロックと通じて、セベク神を貶めているのです。」
「許されん。許されんぞ。メルヘム、今の話、他でしていないだろうな。」「もちろんです。クリストハルト様だから話したのです。」
「私はどうすればいいのだ。国が魔王に操られているのに何もできないのか。」「クリストハルト様にはお力も貴族をまとめるカリスマもお持ちだ。」
「まさか、蜂起して国を倒せというのではないだろうな。」「そのまさかです。」
「それでは私は教会から背教者の烙印を押されてしまう。」「そのようなことはありません。教会もクリストハルト様を支持するでしょう。」
「教皇アウグストは国に歯向かう貴族は元国王と同じ背教者だと宣言しているぞ。」「今は状況が違います。教皇も国のあり方に憂いていることでしょう。」
「そうなのか。」
クリストハルトはメルヘムの術中にはまっていく。




