野心企画
視覚に刺さってくるイチョウ【銀杏】の黄葉群。
茶碗蒸しには欠かせない
翡翠色の実を包み込んだウ〇〇臭を放つ
銀杏【ぎんなん】たちが重力落下ピークにある・・
・・<令和八年 晩秋>のこと。
┃ラジオ局の会議室にて┃
「年末特番では、
公募(グランプリ無し)で、
佳作入選した三作のうちの一篇。
ヘヴィーな題材をあつかった
実話ベースの『帰依』に、
アダプテーション〈脚色〉 をほどこし、
攻めてみたい。そう考えました。
ぜひ、皆さんの力添えをいただきたい。
・・ギャラクシー賞を狙える題材だと思う」
乙骨Pは、
脚本家グループを中心としたスタッフ会議で、
そう宣言した。
「うーむ、果たして・・
汐坊向きの企画と言えるだろうかね?
・・どーも、水と油のような気がする」
腕組みしたチーフ脚本家は、やんわりと疑義を呈した。
「けどねェ、橋上さん」
とP。
「いまの汐坊は、
蓬莱ゆず季の舞台から受けた刺激により、
もう一段 高みへ 登りたい願望が生まれている。
彼女の重厚な面を引き出せるチャンスだと思う」
「おっこっちゃんよ。
宗教がらみというのがねぇ・・
なにか、こう、引っかかるのさ・・」
「既存の宗派を描くのではなく、
(無論、モデルとなった宗教法人は特定されないように暈す)
個人ベースの話なんだから、支障は無いはず。
我がラテ局の法務部も、
┃入選作『帰依』は少々手直しさえすれば
名誉棄損には当たらない。
たとえクレームがきたとしても、法的に回避できる┃
との見解を示した。
・・編成部長もドラマ化には前向きです。
聖林プロからは仮・承諾を貰っている。
【無冠の笹森】返上に相当乗り気だ。
正式な脚本の完成を待って、
内容を精査したうえで、
彼女の出ているCMスポンサーへの根回しは、
全面的に請け負ってくれるそうです。
あとは脚本を完成させて、審査を通すのみ。
汐坊の成長のために・・
ここは一発、仕掛けましょうや!
・・ねェ、ガミ〈橋上〉さん」
他の脚本家メンバーは、
チーフの態度表明待ちといったようすで、
お茶を飲み、静観の構え☕
┃黒澤組に範を取り、
『ラジオ哉カナ』のドラマパートは、
乙骨Pの執念と政治力によって、
非常に贅沢な、
複数脚本家制を採用していた。
(一作品を三人または四人一丸で構築していくシステム)┃
・・ラジオドラマの好調維持の秘訣はここにある。
・・決して、汐坊の人気+芸の力+アクト頼りではない。
乙骨Pは、
粘り強い説得を再三に渡って重ねた。
汐坊の相手役(難易度レベル高し)に、
売り出し中の個性派ミュージシャンを
ブッキングできる可能性を仄めかすと、
橋上は態度を軟化させ始めた。
そこを糸口に一点突破、
チーフの首を縦に振らせることに成功したのである
(納得しないまま強引に着手させたら、
佳い脚本にならないのは、経験則により骨髄していた)。
こうして・・
脚本チームによって
アダプテーションされた『帰依』は、
原石を大幅にブラッシュアップ。
完成度・激しさをより増しており、
Pの期待を上回る出来栄えとなった。
各方面への根回しを滞りなく終え、
ようやく、
汐当人に〈ホン読み〉させる段階にまで漕ぎつけた。
凸レンジャー撮影の合間を縫い、
打ち合わせに
マネージャー同伴でやって来た
汐坊を、
乙骨は、
小会議室に招き入れた。
(七尾は当該企画に支障なきコトを、
上司の左近から事前レクチャーされていた)
室内に入る。
汐と七尾マネは促されるまま腰かけた。
テーブルを挟み、
対面に控えしは、
Pとガミさん(計四人fix)。
静かな佇まいの中で、
早速、
野心企画 ━ 『帰依』を読んでもらう。
=͟͟͞͞ 深呼吸する汐 ━ 脚本のページを捲る =͟͟͞͞ =
タレントの真横に腰かけている七尾も、
別途渡されたホンを同時進行で読み進めた。
∴ 汐は集中メーターを上げてゆき ∴
∴ 完全没入を果たし ∴
∴ 周囲を真空状態にしてしまった ∴
∴ それは ∴
∴七尾にも伝播し∴
∴読解力に恩寵を与え∴
∴ななマネは かつて無いステージを体験していた∴
乙骨Pとガミさん、
計四つの目は点state。
ほぼ・ほぼ同時に脚本のページを閉じた二人。
現実戻りを果たした七尾マネは目を見開き、
「これはスゴイ!
今までのラジオドラマに対するカウンターですね。
賛否を巻き起こすのは間違いないでしょう。
チャレンジする価値はあると思う。
女優・笹森の新境地を開く可能性・大。
ただし、演技ハードルは高いですねェ」
三人の視線は\汐へ/一点集中した。
笑みを浮かべた女優は、
おもむろに口を開き、
━━「演ンない!」と切り捨てた。
乙骨Pは顔をドス黒く酸性化させた。
七尾は口をあんぐり開き、
チーフのガミさんは「プーッ」と吹き出した。
久方ぶりに、
汐の直カンが深いところから発動した!
━━「回避すべし」と。
乙骨Pは不快な感情をおさえ、
包み込むよう諭した。
「この作品は、汐坊のキャリアにおいて、
メルクマールになる可能性を多分に含んでいる」
対する、
女優の答えは変わらず、
┅┅ 断固「NO!」であった。
ガミさんは中立を守り、黙して語らず。
七尾は、汐の閃きをいくつも経験済みゆえ、よけいな発言を控えた。
乙骨は精魂こめて、
小一時間ばかりかけ、
説き伏せようと試みた。
「汐坊よ、どこに不満があるのか言ってくれないか?
これだけの完成度を持った脚本は、
そうそうお目にかかれんぞ。
起承転結の整った、
ウエルメイドだけを物差しにするのは誤りだ。
テーマに深く切り込んだ完成度というのもある。
いわゆる・・文学的と表現されるカテゴリーだな」
汐は、
Pの言葉をしかと受け止め理解はしていた。
けれども、首を縦に振ることはなく ┅┅ 平行線。
┃筋の通った先達の理屈┃
OR
┃心の扉をたたいたmy直カン┃
のるそる選択は ┅┅ 後者に軍配。
フッと息をついた乙骨はサングラスを外し(珍!)
二本の指を使い、
瞼の上から、
両目にマッサージを施す。
「汐坊よ、真っ先にお前さんに声をかけた。
この事実だけは、くれぐれも、忘れんでくれよ。
再びサングラスを掛けたPは、
「・・やはりガミさん、
これは 蓬莱ゆず季 にこそ相応しい企画でした。
彼女の演技力を以てして初めて熟せる類。
特番枠を設け、
(ギャラクシー賞エントリー作として)
ユッPにオファーしましょうや」
━ 汐のコメカミは猫耳のようにヒクついた。
━ タレントの表情をジっとうかがう、ななマネ。
それでもなお、
女優は自分の意見を翻すことはなかった。
汐が持つ、神秘のもう一つの柱 ┅┅ 揺るぎなし。
会見は不首尾に終わり、
とんでも疲労を負った乙骨Pは席を立とうとした。
その刹那タイミングをつかまえ・・
・・汐は、沸々している構想を
滔々と述べたのである。
┃<スーパー戦団もの>の不自由な撮影様式と、
自ら望んだこととはいえ、
セリフを一語も発することのできない超欲求不満ヽ(`Д´#)ノ
かてて加えて、
ゆず季の舞台演技から受けた、火の出るような刺戟!
行き場のない<女優の想像力は>グツグツ煮え立ち、
揮発を始めていた。
「息苦しさから解き放たれ・・思うがままに演じたい」
溜まりに溜まった
エネルギーを炸裂させるべく、
汐は、
乙骨Pに直談判、
MY企画をプレゼン捻じ込みしたのであった。
しかも、生き生きと楽し気な表情を噴出させて┃




