表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
84/90

先鋒・・その2

南平なんぺいは・・

額装がくそうされたゴッホのレプリカ ☪︎『星月夜』☆ を見上げ、

その底知れぬ絵画表現に 目をみはらされつつ、

家政婦が運んできてくれたコクのあるブレンドコーヒーをすすると、

渦高く巻かれた(老舗(しにせ)の)モンブランケーキにフォークを刺し、

脳内に生じた疑問のもやを言葉に変換へんかんしたのち、

不躾ぶしつけにならぬよう、あらかじめ、

弁護士の承諾しょうだくを貰ってから、質問ワードを投げかけた。


天田あまださん、

 探偵事務所訪問のりにおっしゃられた、

 芸術表現の渦巻うずまきについてですけど・・

 ・・ゴッホについては完璧に納得です。

 ロシアの文豪D氏の小説は、

 著名なものを三作品ほど読んだに過ぎないので—保留ほりゅう

 ピンとこないのは・・黒澤映画についてです。

 私も、あの卓越たくえつしたフォルム(造形力)かれ

 代表作は繰り返し視聴済みですが、良くみ込めません。

 巨匠の映像に、星月夜と同系統の <渦巻(うずまき)表現> など存在しますか?」


天田氏は、うなずいてみせると、

ゆっくりとカップを置き、口を開いた。

「うむ、悪くない質問ですな。

 ひと口に<渦巻表現>と言ってもクロサワ映画は、

 ゴッホのように、目視もくしできる螺旋らせんけいを、

 描出びょうしゅつしているワケではない。

 画家・作家・監督の共通点とは、

 エネルギーの質種(・・)すなわちポテンシャル/ 激越げきえつさをします。

 黒澤作品中・・

 かような質種しつしゅを体現しているのが、

 『酔いどれ天使(48)』に忽然こつぜんと出現した若い男優の野生やせいです。

 彼の持つエネルギッシュな表現力、

 希代きだいのプレゼンスは、

 日本映画に、新しい始まりをげました。

 ・・スーパーカーなみのエンジン・スペックに、

 演技力が追い付いたのは、だいぶ後年のこと。

━ 余談ですが、

  樹木に寄りかかる松永をとらえたショットは、

  名構図だ!

  観客のイマジネーションを無限解放してくれる。


— 閑話休題 —

 映像例を具体的に引くならば・・

 『七人の侍(54)』や『どん底(57)』における風の吹かせ方でしょう。

 ざまじいパワーをはらんでいて、

 こしらえものではない、渦巻描写が、噴出ふんしゅつしている!

 スクリーンから火をきそうな迫力はくりょくでもってね。

 『用心棒(61)』における決闘場面の大砂塵だいさじんなんぞは、その極限きょくげんでしょうな。

 ただし・・三十郎初登場作の暴風映像は、外連けれんに傾斜した感はいなめず、

 フォルムの地熱じねつ比類ひるい無き とはいえ、燃焼ねんしょう度は じゃっかん 落ちますかな。

 円熟えんじゅく光電子こうでんしは、相容あいいれないものなのです」


「なるほど」・・合点がてんがいった南平。

渦巻描写を〈ポテンシャル〉と翻訳ほんやくされれば、に落ちる。

三者のいずれも、

中庸ちゅうよう概念とは決して仲良くなれそうにない、

活火山のようなパワーを保持ほじしている。


弁護士はためすような口調でクエスチョンを投じて来た。

「南平さんは、

『生きる』の前年に発表された、

白痴(はくち)(51)』をご覧になっていますか?」


「いいえ・・なんだか(ヘヴィー)そうで・・

 あまり・・見る気が起きません・・」


「ワシだけの偏見へんけんゆえ、どうぞ聞き流してください。

個人的には、

マスターピース『七人の侍』に匹敵する黒澤映画は『白痴』であると考えとります。

世評の高い『生きる』は名作であるのは論をまたない・・

・・ただ・・純度において・・似たテーマを持つ・・

スウェーデンの後発映画に抜かれたと、ワシは感じた。

引き換え『白痴』は、

それこそ、ロシアの文豪D氏の小説をベースに構築された孤高ここう作です。


 和洋わよう折衷せっちゅうボタンの掛け違いを随所ずいしょに持つ(デコ)(ボコ)作であり、

 四時間二十五分のしゃく(前・後編二部作公開予定)を

 映画会社の判断で半分強に切られてしまった不名誉ふめいよ作であり、

 欠落けつらくシーンを字幕でおぎなっているものの

 意味をみ取るのにホネれる ワケわからん作 でもある。

 ・・役者のアンサンブルも上手く機能しているとは言いがたい・・

 演出の緩急かんきゅうなどというイロハ(・・・)は完全放逐ほうちくされ、

 強度の緊張状態が延々(えんえん)と続く、肩凝かたこり誘発の失敗作だ。


けれども・・

当作は・・

雪の結晶けっしょうのように・・

美しいが上にも美しい!

病的なまでに高いテンションを保持したまま、

熱情の特異点とくいてんにまで、

わき目もふらず、

つばさかしたイカロスよろしく突っ込んでいき、

欠点を超越してのけた、異常な魅力を放つ、唯一無二作品なのです。


 当時の札幌さっぽろの貴重な風景

 馬車が通う白い街並

 赤間あかまの実家における印象深い《チーン♪》描写

 殺意|幻想|場面の優れたモンタージュ

 役者では、綾子あやこ驕慢きょうまんな演技にれさせられる。

 女優の力量というよりは、

 監督のマグマに押し上げられた、共鳴きょうめい表現でしょう。 

 (完全版の脚本は残されているのですから、

  舞台劇に移して、

  笹森(ささもり) しおり に演じさせてみたいですな)。

 決め所である ━

 ━ 雪まつりのシークエンスは、監督の大才たいさいみなぎっていて、圧倒される。


死ぬまでに・・

真偽しんぎさだかでないが)

ある個人が所蔵していて、現存げんぞんすると伝えられる、

4時間25分の|ノーカット版|を見てみたいものです。

━ 現在、目に出来るのは2間46分版 ━

(最初期にロードショー上映されたときは〈3時間2分版〉だったらしい)

・・まっ、かなわん夢でしょうな。


もし・・

南平さんが少しでも興味を感じてくれたなら、

体調万全のときにでも、対峙たいじする覚悟で、ご覧下さい。

鑑賞後には《地の塩》が残るはずです」


サユリちゃんの感想()とは真逆の見解けんかいだ。

ちなみに彼女は・・

『天国と地獄(63)』の崇拝者すうはいしゃである。


今度・・『白痴』鑑賞・・にチャレンジしてみよう。

アマプラにラインアップされているだろうか?


コーヒーを飲み終えた天田依頼人は、

上機嫌じょうきげんなようすを一変いっぺんさせ、

頭を押さえだした。

「なにやら頭痛を感じる。

目の前の風景ふうけいが・・渦巻へと・・吸い込まれていく・・」


条件反射的に周囲を見回す南平。

「なにも、異変はないようですけど、」

頭痛の主へ、

そう言葉をかけた途端とたん・・

\ 予備机から \ボン!/ 炎が立ちのぼった /


「ドヒャー!」

目を開き切り ━

━ 必死スイッチを入れ、原因を探る、南平。

不意打ちほのおは・・スマートフォンの充電器からであった。

素早く、接続コードを引き抜き、

スマホを確保して、出火充電器に、コップの水をかける!

しかし・・

消える気配は、まったく無い。

早鐘はやがね心拍数を抑え込み、

思考回路の配線を冷静に整える。


ー「そうだ!

  窓から庭に放擲ほうてきすればいい!」ー


上着を脱いで、

出火物しゅっかぶつを包み込んでから、

持ち上げよう!と思い立ち、

奇声きせいらしながら、

いちじるしく洗練せんれんを欠いた行動をドタバタ起こす・・


— その 須臾しゅゆ をとらえ! —


天田氏は、仕事用デスク横に置かれた、

金属製の細長い容器を手に取り、

サッ!とふたを開け、

予備よびづくえを斜めに傾けると、

充電器を・・容器の内部へスベらせ、

隙間すきまなくふたを閉じ、

レバーロックを四か所かけた。


「新商品開発専門の(ブラインド) (フェイス)社製、

電子機器に特化した<消化用バケツ>です。

いざという時のために購入しておいて正解でした」

ふーっ、と息をついた。



里見所長は、天田邸に、

交代時間十分前に姿を見せた。

変則へんそく日勤担当との引継ぎを済ませ、

バトン・タッチ!


天田弁護士は、

気落ちした様子の南平をはげますべく、

「あなたの、

全力をしぼろうとする姿に、

救われましたぞ・・ありがとう。

デスパレードを切り抜ける唯一の方法は、

なりふり構わぬ

━ 必死の(チカラ) ━ なのです」

と礼をあつく述べ、頭を下げた。


天田邸をきょした南平は、

おのれの未熟さに、悔恨かいこんの念を抱え、

秋の夜道を とぼとぼ歩いて行った。


その後は、約束通り、

サユリと〈彼女の部屋にて〉合流。

手料理を食べ(鈴木さんは家庭料理に巧み♡)、

チューハイのお代わりを重ねていく。

今宵こよいのサユリは

薄化粧をほどこしており、

飲酒と自己主張は控え目・・素晴らしくイイ感じである。

会話のキャッチボールは、

九割(がた){受け} にてっしてくれている、

きシスターであり、包み込んでくれる存在であり、満点彼女であった♪


>心にさったとげ

ボディーガードにおける失態しったいを、

酔いと温かい雰囲気に導かれ、

サユリシスターに懺悔ざんげした。

・・心は、ちょっぴり軽くなりケリ。


━ いつしか南平は〈酔いすい〉へと落ちていったzzz


















評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ