チーム里見再結成|先鋒
クライアント(依頼人)の 天田弁護士 を、
盲点ライン発 =͟͟͞͞ =不意打ち襲撃=͟͟͞͞ = から守る、
ポアンカレ予想解明なみに難題の<ボディーガード・ミッション>は、
二十四時間ベタ付き|昼夜二交代制|で行われることに決定した。
━━ どちらかと言えば、
K・コスナーよりも、
G・ペレルマン博士を必要とする任務であろう。
夜間19時から翌朝9時までは・・里見所長が受け持ち、
昼間は・・
鈴木サユリ と 楠 南平 による日替わり交互担当である。
トップバッターは、社会人一年目の南平が務める。
初日のみ 開始時間が中途ハンパゆえ、22時までの変則勤務。
その理由を述べておくと・・
所長&助手コンビは、
ツインズ♂ネコとの再会を首を長くして待ちわびている飼い主に、
返却・訪問するという大事な使命を控えていたからである$
本来、里見一人で事足りる用件ではある、
しかし、サユリ助手は、飼い主の人柄と
その お宅の飼育環境を、自身の目で確かめたいと言い張り、
同行を願い出たのだ。
尚・・
里見所長と、
NOWカノ(=現在の彼女)には言いそびれてしまったが、
南平は・・
東京支社へ転勤辞令を受け、
出張がてら、喜びを胸に秘め、
会社で借りてくれた〈ライオン・パレス〉の内覧を
すでに済ませていた。
U駅徒歩十分・・
二階建ての家具付き1DK、
しかも二階の角部屋 ━ ラッキーストライク!
学生時代を過ごした第二の故郷に里帰りするのは、嬉しく、
また なんとなく運命を感じた。
吉兆気分を胸に抱え、
探偵事務所へ挨拶に訪れるやいなや、
初対面の天田さんからは、
流れ弾クレームを頂戴し、
<ツインズ♂ネコ>騒動に巻き込まれ、
有給休暇七日分が付与されたというタイミングも追い風(?)となり、
あれよあれよという間に・・
所長からボディーガード・チームに入るよう依頼され、
引き受けてしまった という経緯なのである。
極々 内輪では・・
《貧した挙句の倹約家》と呼ばれている、
あの里見さんが(珍しや⁉)高額ギャランティーを約束してくれた。
・・吉兆は 歩成り したと言っていいかもしれない!
任務のため、
天田さんをアテンドして、
探偵事務所から自宅まで送り届ける直前・・
サユリと里見は、
所長デスク越しに、
顔を突き合わせ、
小声で、
必要経費に関しての 押し問答火花 を散らしていた。
ー「○○さんを呼び寄せてもいいですか?」
ー「いいや、そいつは認められんね」
ー「どうしても必要な措置なんです」
ー「ムダな経費は、鐚一文使わない」
ー「どこが、どのように、ムダなんですか?
説明してくださいよ、明確に。
私の考えるところでは・・云々かんぬん・・」
サユリちゃんの
妙押し(=なかなか折れようとしない)
自己主張の萌芽は、
ホテル勤めの中頃から 感じていたけれど、
その茎を
(重力屈性に従い)
確実に伸ばし始めていた。
|ジャックと豆の木|化しないことを祈るばかりだ。
「いやはや 先行き不安な曇天模様・・」
南平は肩をすくめると、
今さっき・・経費で買い揃えた、
洗面具タオル等々の入ったデイパックを背負い、
右手にビジネスバッグを提げ、
天田さんと二人・・迎えのタクシーに乗り込んだ。
━〇━
奥さんに先立たれた天田氏は、
広々とした邸宅に独居していた。
老齢を重ねていく父の身を案じた長男夫妻から
二世帯同居の提案を受けたけれど、
他人(=天田氏)に 気兼ねする「嫁」の立場を慮り、
キッパリ断った、とは本人の談である。
フォロー・タイミングで・・
同じ弁護士を生業としている長男は、
慮りの返礼、三軒ほど隣に新築住居を構えてくれた。
したがって、
三歳の愛しい孫には頻繁に会えるし、
(震災で泣き腫らしていた初孫くんは、
国際派弁護士を目指し、現在英国留学中とのこと)
病気や怪我など、いざという時は、
身内の者が、すぐ駆け付けられる態勢および距離ゆえ、
(双方向有線式ダイレクトコールも設置済み)
心配や不自由は、ほぼ皆無である。
つね日頃、水泳で鍛えている天田氏は、
冬場に訪れる足の痛み(3・11地震の骨折箇所)をのぞけば、
すこぶる健康体であった。
食事の世話は、
長男の嫁が朝晩欠かさず、手作りを届けてくれる。
それ以外の家事全般は、通いの家政婦に依頼していた。
悠々自適の毎日なのである ・・
┃渦巻幻視┃ さえ消失すれば。
━〇━
「勤務時間内は全面的に寄り添う形になるので
たいへん不自由でしょうけど・・何卒・・」
書斎入りしたあと、
改めて、注釈を交じえた挨拶をする南平を、
クライアントは得心顔で遮った。
「いやいや。ワシが無理を言って、お願いしたのですから、
多少の窮屈は織り込みずみ、
我慢するのは大人のたしなみ。当然のことだ。
今現在・・厄介な頭痛の方は中程度。
強くは感じられません。
幻視の発現もなし。ご安心くだされ。
まあ・・詮無い話・・を申せば、
どんなに警戒しても 渦巻幻視 からは
逃れられそうにない気も・・します。
仮に、堅牢な<核シェルター>へ逃げ込もうとも、
インフラが長期ストップしたら・・絶命必至!
敵の襲撃は、
単一方向からという確約などない。
桶狭間を仕掛けられたら万事休す!
考えれば考えるほど厄介なのだ。
┃視えざる敵┃が・・
幼い孫 を標的にするのを、
心底!ワシは危惧しとります。
頭痛が消え去るまで、
金輪際、孫には会わないと決めました」
デスクに腰を落ち着けている天田氏は、
確固たるに口調に包んで諦観心情を漏らし、
PCを立ち上げた。
「半隠居の身とはいえ、
それなりに仕事を抱えとります。
ワシは暫くの間、集中しますので、
どうぞ、本でも読んで寛いでいてください。
イヤフォン使用なら スマホ視聴 だって構いませんぞ」
予備机前に腰かけ、
机上にスマホと充電器を置き、
首をぐるりと回して室内を見回す、新米ボディーガードの南平。
書斎内は十畳間(16・2㎡)程度・・
一般家屋より高い天井が特徴的な快適スペース。
法律書やら専門書、大判の美術専門書、数えきれない画集、
新書、図鑑、文学全集、百科事典、小説etc、
意外やコミックに至るまで隙間なく、
スライド式木製本棚に収められていた。
CDやDVDコレクションの量も、南平を圧倒した。
目いっぱい高く設計された固定書棚×2を占領している。
・・まさに個人図書館といった趣きだ。
特筆すべきはAV機器とオーディオ設備。
大画面テレビが鎮座しており、
こんなモニターと音響設備で、
映画を見たらすごい迫力だろうと想像する。
また、
視聴覚専用の椅子ときたら、
ひじ掛け&足掛け(プラス)リクライニング機能まで備え、
夢のような設えであった。
この部屋でサユリちゃんと二人きり、
彼女の好きな、
『深夜の告白(1944)/日本公開(1953)』Blu-ray版でも見れたら最高だろうな。
J・M・ケインの原作を・・
後年名を馳せることになる作家と監督との二人がかりで
異常なる軋轢を乗り越え、
(当時としては)非常に先進的な脚色を完成させた。
構成のお手本と称されるストーリーテリングは、
モノ黒画面に移植され、
ダークなハードボイルド映画の一典型となり、絶賛された。
世紀変わりした現在の目で見ても・・全くズレを感じさせない。
俳優もピタリと嵌っている、
頭がキレる保険勧誘員~ネフ役の男優(適演)
危険な色香を醸し出す~後妻のフィリス役(好艶)
継娘・ローラの扱いには~唸らされる。
特筆すべきは、
ネフの上司で調査員役~バートン・キーズ。
カン働きの鋭さで主人公を窮地に追い込み、
作品に、ヒリヒリする緊張を齎した。※
━ 蝋マッチの渋いラストシーンにもグッとくる!
(補足:昭和28年時に見た日本人には、
ドライブスルーの場面はピンとこなかったと想像する)
サユリちゃんが夢中になるのも納得がいく。
彼女は ━ 巧みに構築された作品を好む傾向にあった。
プラス ━「自分にはどうしても書けない!」と、
常日頃嘆いているのが、
核心を突き、
読者を折伏させてしまうダイアローグ&独白である。
確かに ━ 名作映画は、胸にズシンと響くフレーズを、内蔵している。
—「殺人はスイカズラの匂いがする」— なんて、
咎を含んだ、なんとも 詩的な言い回し ではないか。
CG以前の、こういった旧作こそ・・
大画面と優れた音響に味方につけ堪能したいと思う、南平であった。
二時間ばかり経過後、天田氏が席を立った。
南平もスタンドアップ。
「心配無用!ワシントンクラブ。つまり、WC=トイレです」
といい、
書斎を出たクライアントの後を
ひたひたと尾いていく南平。
天田氏は振り返ると、いささか不機嫌な表情を向けてきた。
南平はバツが悪そうに、
「申し訳ありません。
これも、ボディーガードの一環なのです。
里見所長の指示でして・・」
すまなそうな顔の若い衆に、
「トイレ内にまで、付き添うつもりなのかね?」
「まさか!
ドア外で待機しますので、どうぞ ご安心を」
水洗音と共にドアが開いた。
姿を見せた天田氏と目を合わせないよう気を配り、
背後から影のように尾いていく南平・・ストーカー気分である。
「さて、お茶の時間にするかな」
弁護士はインターフォンのボタンを押し、
家政婦に指示を与えた。
南平は・・
額装されたゴッホのレプリカ『星月夜』を見上げながら、
運ばれて来たブレンドコーヒーにミルクとシュガーを落とし、
銀のスプーンで、かき混ぜ啜った。
質感高く、キレもあり、飲みごたえあり☕
次いで、高く渦を巻いたモンブランケーキにフォークを刺すと同時に、
・・脳内に生じた〈?マーク〉を言葉に変換させた。
※後の佳作『ストレンジャー(46)』にも類似役で登場(こちらもナイス!)。
◎折れたパイプ(白い修繕テープ)の視覚効果
◎移動撮影とオーバーラップを組み合わせた流麗な映像
━ さすがは・・O・ウェルズ監督である。




