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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
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VISITOR Ⅳ|背面死角

名古屋のシンボルともいえる、

金色タクシーは、

保護主ほごぬし宅の前でストップした。


訪問先の戸建こだては、

コンパクトサイズで和洋わよう折衷せっちゅうの、

違和感と調和 ━ 双方そうほうの印象を与える外観をもつ、

個性的な二階であった。

黒天然石を使った八角形の表札ひょうさつには

象嵌風ぞうがんふうの切文字で<松岡/MATUOKA>と記されていた。


・・カメラ付きインターフォンにて来訪用件を伝える里見。


━「おひとりですか?」

 女性による警戒レベル5(上限5)の応答声。

━「訪問者全員のお顔を順番に、ゆっくり、はっきり、カメラに向けてください」

━「お二人以外には、誰も、いらっしゃらないのですね?」

━「まちがいないですね?」


異様なプロローグをって、

会見は始まった。


つつしんで土産みやげ物を進呈しんていする里見所長。


四十代後半とおぼしき

三毛ツインズの保護主<松岡まつおか えり>は、

「当地で〈うらな〉を生業なりわいとしている」

と自己紹介をした。


個性的な形をした古美術風テーブルに

腰を落ち着けている三名。

二等辺三角頂点側 切込きりこみに保護主、

里見とサユリは

底辺両端二点の切込みへと、

鋭角配置のトライアングルであった。

どことなく

支配者と被支配者を感じさせる構図。

それぞれの前には、

さび陶器(とうき)そそがれた

くすりっぽい香りの杜仲茶とちゅうちゃが湯気を立てており♨

小皿にちょこんと乗った

お茶受けのアメが添えられていた。


打って変わり、

警戒レベル1・5程度ていどユルめられた

保護主の温和おんわな表情、態度、そして話術は、

あっさり、来客間との距離をちぢめてしまった。


保護主の松岡師(いわ)く・・

「わたくし基準で申し上げれば

うらなはセラピストみたいな存在、

依頼者の心をきほぐせなければ失格です」


サユリは、

口を開きかけた里見所長の機先きせんせいして、

衝動しょうどうおさえきれずに、

フライングしてしまった。

「占いの精確度せいかくどというのは、

実際のところ、

どの程度ていどなのでしょう?

霊感れいかんは、

どれくらいの頻度ひんど

松岡さんに、りてきますか?」


「ホホホ。

お嬢さんは、

キュリオシティ(好奇心)ハンター(探究者)なのね。

経験を積めば、できるヒトになれる可能性有りや、

ハロー効果を与えるそうをしていらっしゃる。

身のたけに合わない夢だけは見ないでちょうだいね」

そう言って、

両手をパチンと叩いた(ぼく)しゃは、

「ようござんす・・

あなたの素直すなお(未熟)さにめんじて、

質問に率直そっちょくにお答えしましょう。

現時点で、

初老しょろうに近いよわいの、

陰毛に白髪はくはつが目立つ私に、

霊感れいかんほとんどやってきません!」

微笑ほほえむと、

仏手柑ぶってかんアメを舐めた。

「そんな失望した顔をしないでちょうだいな。

そりゃあ、若いころは、

特に少女時代はビッタビタ⚡と当てまくり、

地域では、神童しんどう(または悪鬼(あっき))と呼ばれたものでした。

霊感の強度は、

成長ホルモンの分泌ぶんぴつ度合どあいに比例ひれいする

・・わたくしは そう結論づけております。

┃円熟と神来しんらいとは相反そうはん関係にあるみたい┃

ねえ、お嬢さん、

うらなという個人事業主として、

居場所、もっと言えば、ざいきずくには、

 実力のみに頼っていては失敗してしまうものよ、

如何いかに霊感が強くともね>

 意外でしょう?

才能は賜物たまもの

━ ただしダイレクトに成功へは結びつかない。

大切なのは社会性、

人間同士の信頼関係を形成けいせいすることなの。

失われてしまった霊感(才能)は、

年齢を経て深まる人生経験と

洞察どうさつ力に加えて、

教養を身につけることで、

充分おぎなえてしまいます。

私が〈占い()〉を名乗っているのも、

顧客こきゃくに安心と気づきを与える

セラピストに近い存在とにんじているからなのです。

おかげさまで太客ふときゃくを若干名かかえております。

おとろえたとはいえ・・

そこは占い家、

気まぐれに降りてくる

霊感(=吉凶運)の効果的な使いどころ、

すじ対処たいしょ方法も、

プロ棋士きしのように心得こころえているから、

めをあやまることは、ず、ございません。

振り返ってみて、

【しまった!

 あのときの出来事が

 幸運につながっていたのかも】

なんて言ってるような人に、女神は微笑をくれない。

大人=社会人として成功するには、

極力きょくりょくムダをして結晶体けっしょうたいをつかみ取る】

【アンテナを常にみがいておくこと】

【信念の法則により、時折ときおり、訪れる幸運はMust grab(必摑)

ここにきる。

ドラマチックとは、ほど遠い行為こうい

教訓きょうくんくさい話よね。

でも、これは、

人生の第二(・・)段階において、

いかなる職業にも通ずる、

実力と社会性のあざなえる、

そして、

えざるあやへの対処たいしょ法だと思うの。

何者なにものでもない若い人は、

実力をつけていく

第一段階から始めなければならない、

遠く長い道程みちのりよね。

夢のない話をしてゴメンなさい」


「いいえ。

貴重なお言葉を

有難ありがとうございます」

探偵助手は

痛み入ったような様子ようす

お礼を言った。


若い女性の発した

屈折くっせつ信号をキャッチした松岡師は、

ニコッとしてウインカーを点灯てんとうさせる、

「ひとつ、面白い話をしましょうか。

そう、四年前のこと、

地元名古屋のイベント会場で

《秋フェスタ》が開催され、

公開占いをもよおしたとき。

その他大勢(おおぜい)じって、

下働きをしていた女の子がいた・・

 顔を露出ろしゅつさせたかぶりモノをしていてね

 妙にカン(・・)のいい

 しなやか動きをみせる

・・当時14~15歳くらいかな。

そのをひと目見たとき、

光るモノを感じた☆

それが、

いまをときめく、

笹森ささもり しおりだったのよ!

ファニーなルックスの内側から、

占い界では珍重ちんちょうとされている、

すみれ色のオーラ>を放っていた。

イベントのおエラいさんや、

プロモーターたちにも

先物さきものいするようすすめたけれど、

誰も相手にしてくれなかった。

まあ、世の中そんなものよね。

例外は

左近さこんというマネージャーさんでした。

私の言葉(オラクル)に感激してくれてね、

名刺とミネラルウォーターを差し出してきました。

その方と後年、

意外な形でお目にかかるとは・・」

松岡師は

特徴的な濃いまゆの間に

尋常じんじょうでないシワをきざんだ。

「行方不明ネコ二匹の情報をつかんだ、

左近氏が再び私の目の前に現れたときの驚き。

あのえなかった御仁ごじんが、

表皮ひょうひはそのままに、

ちから薬籠中やくろうちゅうにしていた。

彼の背面はいめんうごめく、

きという名の

ちからわざ行使こうしし、

真綿まわため上げてくるような

あらがいがたい恐怖を、

瞬時 ━ わたくしはインスピレートしました。

言葉に収斂しゅうれんさせれば・・狡猾こうかつちから

敵に回したら、

ただでは済まないを彼はめている。

商売(がら)わたくしには、

人の内界ないかいが・・えてしまう」


意外の感に打たれたようすの里見は、

右のコブシを握りしめた。

異質な波紋はもん

はだセンサーした助手は、

所長に注意を向ける。


どんよりとした雰囲気が室内に立ち込めた。

沈黙ちんもくの支配下で・・

三人は杜仲茶を、

同時にズズッとすすった。

自然発生なシンクロ動作は

なんとも可笑おかしく、

ナチュラルハイを呼び、

深刻な空気に晴れ間がした。


占い家は、

けんのあるシワを消し、

なごやかな表情にかえった。

「かような経緯いきさつゆえ、

はるばる来訪してただいたあなた方へ、

インターフォンしとはいえ、

失礼な態度をとってしまいました。

ゴメンなさいね。

ええ・・

私は・・

きっぱりと・・覚悟を決めました。

人懐ひとなつこいイケメンの息子たち

二匹の仔猫こねこは、お返しいたします。

昨晩は涙にくれて、

息子たちとお別れ晩餐ばんさんをし、

ベッドで一緒に眠りました。

返還へんかんするにあたり・・

動物病院の診察料とエサ代と首輪の料金、

諸々(もろもろ)、実費は請求せいきゅうさせてくださいな。

いにしえより ━

三毛みけオス♂は、

幸運を呼ぶと言われております。

しかも、双子ふたごですからねぇ!

大事に育ててあげてくださいと、

元の飼い主さんによろしくお伝えのほどを」

言い終えると、

松岡えり奈は

い微笑を浮かべた。

「ウフフ。

最後にひとつだけ、

愉快ゆかいな話をさせて頂戴ちょうだいな。

四年前当時・・

聖林ひいらぎプロの株は

現在ほど優良銘柄(めいがら)ではなかった。

もちろん、わたくしは、

りてきた霊感にはさからわず、

未来のスターへ、

少なくない額の投資とうしをいたしました。

結果(リターン)は、ご想像を上回るでしょうね。

・・かしこ$」






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