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哉カナⅡ/18歳  作者: カレーライスと福神漬
69/90

揺らぎ

スタジオ内の監督室にて・・


━『チャンバラ戦団/(とつ)レンジャー』に対する改善提案 ━

その実<厳命げんめい>が記された、

銭函ぜにばこメモを受け取った、

南禅寺なんぜんじ監督は愕然がくぜんとし、

ひじ掛椅子をデスク前から急反転させた。


「なんという時代錯誤さくご

 ふるしき70年代感覚なんだろう。

 一世いっせい風靡ふうびしたといわれる

 『プレイガール』♡ の大昔おおむかしに番組を遡行そこうさせる気か?」


室内中央に腰かけている監督秘書は、

ティーカップを応接テーブルに置くと、

口元くちもとを引きめた厳しい表情で応答する。

「京映の、

ひいては、

映画版『(とつ)レンジャー』を仕切る、

最高責任者の指令ですから無視ムシはできません。

なんとか方策ほうさくを立てましょう。

笹森ささもり しおり

超人ハルク化されるとマズイのではずし。

消去法で

ピンクレンジャーのモモ。

彼女で行きましょうよ。

従順じゅうじゅんだし、監督の指示にもさからわない。

外見と内面 ━ ギャップのある個性もきかな。

近ごろでは本番中の不自然な緊張きんちょう緩和かんわされ、

イイ感じではないですか。

ひざうえ20cmほどのミニを着用してもらってパン〇ラを・・」


立派なデスクに背を向け、

うで組みしたマロ監督は

ちんなるうなり声を上げ、

「なんて杜撰ずさんな番組制作体制なんだ。

局のプロデューサーは役立たず、

脚本家は謀反むほんを起こすし、

イエロー笹森ときたらサイコパスと\かみ一重ひとえ

おそらく、

彼女の家系かけいには異常者の血がじっていると推測すいそくされる。

18歳の小娘が、

あとさき考えず、

キラーオプションを発動はつどうしてのけた、

・・正気の沙汰さたではありえない。

そのような権利を与えた左近さこんさんもどうかしている。

おまけに音信不通とくるんだからな、かなわんよ。

不幸な私は、

イヤーワームにおそわれ、

ドアーズの終末観を封じ込めた、

名曲が鳴り響いてまない♪」


┃そういうあんた自身のおこないは、どーなんだ?┃

 『チャンバラ戦団/(とつ)レンジャー』の現場で、

 頻発ひんぱつする労災や保険適用に、

 南禅寺は、

 スタントマン協会と保険会社から危険人物視されていた。

 アクション場面撮影時に発生するケガ人や入院の多さ、

 プラス、熱中症罹患(りかん)者も数名を数え。

 ここだけの話・・

 「うつ病発症者」も二名ほど出ており、

 彼らは労災認定を求めて係争準備中である。

 民間保険会社は悲鳴を上げるほどの

 ()給付金支払いを余儀よぎなくされ、

 それらは、同系どうけい番組の数倍額を計上けいじょうした。

 死神監督と陰口かげぐちをたたかれ、

 撮影隊・現場班からは、

 「南禅寺組はカニ工船こうせん

  キツ過ぎる!

  ケータリングや支給弁当は

  文句なしにウマい。

  ただし食べるヒマがない。

  もっと人間あつかいを求む」等の切実せつじつな声がれ伝わり。

 先般せんぱん

 大部屋で行われたスタッフ限定の酒盛さかもりでは

 「ストライキを起こそう!」

 物騒ぶっそう怪気炎かいきえんを上げる者まで出る不統一ふとういつぶり。


秘書は、

のど元まで出かかった┃禁忌きんき質問┃を

グッとみ込み、

ビジネスバッグから

クリアファイルをチョイス、

そこから一枚の書類を抜き、

監督に差し出した。


「なんだね、コレは?」


「【 今後一切(いっさい)

  ライターにことわり

   脚本を改変かいへんしない 】

といった内容の誓約せいやく書です。

承諾しょうだくを得られないときは、

現行の脚本家ライターは、

(とつ)レンジャー』を降りるそうです」


「私より高額ギャラをぶんっておいて、

よくもそんな背信はいしん行為が出来るもんだ。

近頃の若いやつの考えることは理解できんよ」


「失礼ですけど、

ライターは

南禅寺さんより二歳年長です」


「細かいことはどうでもよろしい。

監督たる私の依頼した場面のシチュエーションを

書かずじまいか・・やつは?

物語とか、つじつま合わせ、整合性は、

そんなに大切なことなのかね?

視覚作品は絵面えづらが勝負、

つきつめれば描写びょうしゃだろう。

いまは・・

いちけ=映像、

すじ =物語=等価で動作。

三から先は、ポストプロダクションの時代だ」


「そこは、人それぞれ。

ビリーワイルダーの信奉者しんぽうしゃである

売れっ子脚本家ライターは、

構成を固めたいタイプですから、

緻密ちみつ伏線ふくせんりと、

その回収かいしゅうにはこだわり強しです。

ちょうど、監督が映像表現を絶対視ぜったいしするようにね。

クリエイターの個性に起因きいんする問題かと」


「ちょっと待ちたまえ、

私だってよくられたストーリーにはかれるさ。

『アパートの鍵貸します(’60)』や

『スティング(’73)』には脱帽だつぼうしたくちだよ。

昔の小味なパラマウント・タッチなんて

洗練の代名詞みたいなもんで、

継承けいしょうすべきハリウッドの大いなる遺産さね。

疲れたときに見るのは、その手の娯楽作品だ。

いつの日か、ウエルメイドな写真(映画)を、

モノにしてみたいとひそかに思っているくらいさ。

ただ、

ある映画との出()いが私を変えたのはいなめない。

━ 忘れもしない14歳のとき ━

文化祭当日・・

講堂こうどうで上映された、

1941年米公開、

ハリウッドの奇蹟きせきといわれた、

その白黒映画は、まさに落雷⚡だった。

物語性もさることながら、

創意にんだ語り口、

途方とほうもない映像表現・描写の連続で、

完全に打ちのめされた!

撮影当時25歳 ━ いまの私とほぼ同い年 ━ の若者が、

インディーズではない、

ハリウッドの大メジャー会社で、

一括いっかつコントロール権を持ち、

超一流スタッフをしたがえ、

監督をつとめ上げたと、のちに知った時の驚き!

映画が持つ別な側面=描写のチカラをイ二シエーションされた。

将来進むべき方向の啓示けいじを受けた記念()となった作品だ」

南禅寺は一息つくと、

気がかりに引っ張られるよう、

内面探索(たんさく)潜行せんこうしていった。

サルベージを終え、

うで組みをほどき

顔を上げた彼は表情に苦悩をにじませ、

「━ 描写と物語 ━

私の中で背反はいはんベクトルがせめぎ合っているのも、

ずかしながら・・ また事実なのだ。

先日せんじつ偶然の機会に

Fab(ファブ) Four(フォー)の<クランベリーいちご>を耳にしたとき、

アハ体験が私をおそった☆

究極きゅうきょくのイノベーション(描写)とメロディー(物語)は、

完全に両立するコトを知ったのだよ。」


自信家の迷いを見て取った秘書は立ち上がり、

そばに寄り、肩に手を添え、

皆既かいき月食げっしょく並みにおとずれた

25歳監督の心のすき間(=じゅん鼓膜こまく)に向け、

さとし口調でもって、語りかけた。

僭越せんえつながら申し上げます。

監督自身、いみじくも言われたように、

ワンダーボーイとうたわれた若者が

ハリウッドに乗り込んで撮った映画は、

はなわざ映像の連続で観客の目をくらませる。

しかし内宇宙には、

たしかな物語性をそなえていた。

一方いっぽう

わが(とつ)レンジャーに目を向ければ・・

┃洋館内一室で腰かけ姿勢しせい

 笹森イエローへ、

 望遠(ロング)ショットからポン寄り※して

 超近接あおりド°アップに切り替わる映像じたいは、

 (パチン!とハジかれるようなショックを見る者に与え)

 才気に満ちている┃

しかし、それはあくまで玄人プロ目線であって、

当該とうがい映像はストーリーから浮き上がっており、

一般視聴者には、

画面とカット割りの持つマジックが とんと 伝わらない。

外連(けれん)とどまり、うわスベりしている、

ストーリーのたましいすくい上げていないからです。

脚本家はたしかな(・・・・)才能を持っています。

イエロー笹森も望みうる限り最高のカードです。

もう少し信じてあげてもいいのでは?

150キロ超えの速球を投げられる南禅寺さんに

けているのは ━ 緩急かんきゅうデス。

(とつ)ピンク~モモを演出した時のナイスな呼吸/

/あの息吹いぶき汎化はんかさせてください。

ぜったいイケますって。

チープな深夜ドラマとは違い、

予算を含め、

スタッフ連にも、

マイナス要素はほとんどないのですから。

監督術を駆使くしして・・

寛厳かんげんぜた

たくみな才気さいきづかいで、

メジャーでの成功を勝ち取り、

カルマをち切りましょうよ。

世界の黒澤だって、

初期は、予算内で納期のうき順守じゅんしゅ

なおかつ作家性も刻印こくいんした

ヒット作を生み出していたじゃないですか」




※ポン寄りとは・・

ロングショット場面が性急せいきゅうにカクっと切り替わり、

被写体にポン!とアップ気味ぎみに寄る技法。

なめらかさとは真逆まぎゃく〈≠〉ギクシャクした印象を与えるため、

役者・・女優には好まれない。

女優を美しく撮りたい派のカメラマンは忌避きひしたい、

同じ傾向を持つプロデューサーも顔をしかめる、

現在では余りかえりみられるコトのない技術テクニック


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