揺らぎ
スタジオ内の監督室にて・・
━『チャンバラ戦団/凸レンジャー』に対する改善提案 ━
その実<厳命>が記された、
銭函メモを受け取った、
南禅寺監督は愕然とし、
ひじ掛椅子をデスク前から急反転させた。
「なんという時代錯誤。
旧き悪しき70年代感覚なんだろう。
一世を風靡したといわれる
『プレイガール』♡ の大昔に番組を遡行させる気か?」
室内中央に腰かけている監督秘書は、
ティーカップを応接テーブルに置くと、
口元を引き締めた厳しい表情で応答する。
「京映の、
ひいては、
映画版『凸レンジャー』を仕切る、
最高責任者の指令ですから無視はできません。
なんとか方策を立てましょう。
笹森 汐は
超人ハルク化されるとマズイので外し。
消去法で
ピンクレンジャーのモモ。
彼女で行きましょうよ。
従順だし、監督の指示にも逆らわない。
外見と内面 ━ ギャップのある個性も佳きかな。
近ごろでは本番中の不自然な緊張も緩和され、
イイ感じではないですか。
膝上20cmほどのミニを着用してもらってパン〇ラを・・」
立派なデスクに背を向け、
うで組みしたマロ監督は
珍なる唸り声を上げ、
「なんて杜撰な番組制作体制なんだ。
局のプロデューサーは役立たず、
脚本家は謀反を起こすし、
イエロー笹森ときたらサイコパスと\紙一重/
おそらく、
彼女の家系には異常者の血が混じっていると推測される。
18歳の小娘が、
あとさき考えず、
キラーオプションを発動してのけた、
・・正気の沙汰ではありえない。
そのような権利を与えた左近さんもどうかしている。
おまけに音信不通とくるんだからな、かなわんよ。
不幸な私は、
イヤーワームに襲われ、
ドアーズの終末観を封じ込めた、
名曲が鳴り響いて止まない♪」
┃そういうあんた自身の行いは、どーなんだ?┃
『チャンバラ戦団/凸レンジャー』の現場で、
頻発する労災や保険適用に、
南禅寺は、
スタントマン協会と保険会社から危険人物視されていた。
アクション場面撮影時に発生するケガ人や入院の多さ、
プラス、熱中症罹患者も数名を数え。
ここだけの話・・
「うつ病発症者」も二名ほど出ており、
彼らは労災認定を求めて係争準備中である。
民間保険会社は悲鳴を上げるほどの
対給付金支払いを余儀なくされ、
それらは、同系番組の数倍額を計上した。
死神監督と陰口をたたかれ、
撮影隊・現場班からは、
「南禅寺組は蟹工船。
キツ過ぎる!
ケータリングや支給弁当は
文句なしに旨い。
ただし食べるヒマがない。
もっと人間あつかいを求む」等の切実な声が漏れ伝わり。
先般、
大部屋で行われたスタッフ限定の酒盛りでは
「ストライキを起こそう!」
物騒な怪気炎を上げる者まで出る不統一ぶり。
秘書は、
のど元まで出かかった┃禁忌質問┃を
グッと呑み込み、
ビジネスバッグから
クリアファイルをチョイス、
そこから一枚の書類を抜き、
監督に差し出した。
「なんだね、コレは?」
「【 今後一切、
ライターにことわり無く
脚本を改変しない 】
といった内容の誓約書です。
承諾を得られないときは、
現行の脚本家は、
『凸レンジャー』を降りるそうです」
「私より高額ギャラを分捕っておいて、
よくもそんな背信行為が出来るもんだ。
近頃の若いやつの考えることは理解できんよ」
「失礼ですけど、
ライターは
南禅寺さんより二歳年長です」
「細かいことはどうでもよろしい。
監督たる私の依頼した場面のシチュエーションを
書かずじまいか・・奴は?
物語とか、つじつま合わせ、整合性は、
そんなに大切なことなのかね?
視覚作品は絵面が勝負、
つきつめれば描写だろう。
いまは・・
一抜け=映像、
二筋 =物語=等価で動作。
三から先は、ポストプロダクションの時代だ」
「そこは、人それぞれ。
ビリーワイルダーの信奉者である
売れっ子脚本家は、
構成を固めたいタイプですから、
緻密な伏線張りと、
その回収には拘り強しです。
ちょうど、監督が映像表現を絶対視するようにね。
クリエイターの個性に起因する問題かと」
「ちょっと待ちたまえ、
私だってよく練られたストーリーには惹かれるさ。
『アパートの鍵貸します(’60)』や
『スティング(’73)』には脱帽した口だよ。
昔の小味なパラマウント・タッチなんて
洗練の代名詞みたいなもんで、
継承すべきハリウッドの大いなる遺産さね。
疲れたときに見るのは、その手の娯楽作品だ。
いつの日か、ウエルメイドな写真(映画)を、
モノにしてみたいと密かに思っているくらいさ。
ただ、
ある映画との出逢いが私を変えたのは否めない。
━ 忘れもしない14歳のとき ━
文化祭当日・・
講堂で上映された、
1941年米公開、
ハリウッドの奇蹟といわれた、
その白黒映画は、まさに落雷⚡だった。
物語性もさることながら、
創意に富んだ語り口、
途方もない映像表現・描写の連続で、
完全に打ちのめされた!
撮影当時25歳 ━ いまの私とほぼ同い年 ━ の若者が、
インディーズではない、
ハリウッドの大メジャー会社で、
一括コントロール権を持ち、
超一流スタッフを従え、
監督を務め上げたと、後に知った時の驚き!
映画が持つ別な側面=描写の力をイ二シエーションされた。
将来進むべき方向の啓示を受けた記念碑となった作品だ」
南禅寺は一息つくと、
気がかりに引っ張られるよう、
内面探索へ潜行していった。
サルベージを終え、
うで組みをほどき
顔を上げた彼は表情に苦悩をにじませ、
「━ 描写と物語 ━
私の中で背反ベクトルが鬩ぎ合っているのも、
恥ずかしながら・・ また事実なのだ。
先日偶然の機会に
Fab Fourの<クランベリー苺>を耳にしたとき、
アハ体験が私を襲った☆
究極のイノベーション(描写)とメロディー(物語)は、
完全に両立するコトを知ったのだよ。」
自信家の迷いを見て取った秘書は立ち上がり、
そばに寄り、肩に手を添え、
皆既月食並みに訪れた
25歳監督の心のすき間(=純な鼓膜)に向け、
諭し口調でもって、語りかけた。
「僭越ながら申し上げます。
監督自身、いみじくも言われたように、
ワンダーボーイと謳われた若者が
ハリウッドに乗り込んで撮った映画は、
離れ業映像の連続で観客の目を眩ませる。
しかし内宇宙には、
たしかな物語性を備えていた。
一方、
わが凸レンジャーに目を向ければ・・
┃洋館内一室で腰かけ姿勢の
笹森イエローへ、
望遠ショットからポン寄り※して
超近接あおりド°アップに切り替わる映像じたいは、
(パチン!と弾かれるようなショックを見る者に与え)
才気に満ちている┃
しかし、それはあくまで玄人目線であって、
当該映像はストーリーから浮き上がっており、
一般視聴者には、
画面とカット割りの持つマジックが とんと 伝わらない。
外連に止まり、上滑りしている、
ストーリーの魂を掬い上げていないからです。
脚本家はたしかな才能を持っています。
イエロー笹森も望みうる限り最高のカードです。
もう少し信じてあげてもいいのでは?
150キロ超えの速球を投げられる南禅寺さんに
欠けているのは ━ 緩急デス。
凸ピンク~モモを演出した時のナイスな呼吸/
/あの息吹を汎化させてください。
ぜったいイケますって。
チープな深夜ドラマとは違い、
予算を含め、
スタッフ連にも、
マイナス要素は殆どないのですから。
監督術を駆使して・・
寛厳織り交ぜた
巧みな才気づかいで、
メジャーでの成功を勝ち取り、
カルマを断ち切りましょうよ。
世界の黒澤だって、
初期は、予算内で納期を順守、
なおかつ作家性も刻印した
ヒット作を生み出していたじゃないですか」
※ポン寄りとは・・
ロングショット場面が性急にカクっと切り替わり、
被写体にポン!とアップ気味に寄る技法。
滑らかさとは真逆〈≠〉ギクシャクした印象を与えるため、
役者・・女優には好まれない。
女優を美しく撮りたい派のカメラマンは忌避したい、
同じ傾向を持つプロデューサーも顔をしかめる、
現在では余り顧みられるコトのない技術。




