特命
笹森 汐は、
キラーオプションを断行したのち、
マインドをリセット、
『チャンバラ戦団/凸レンジャー』の撮影に
不承 不承 臨んだ。
現場は、
すったもんだ、
喧々 諤々、
上を下への大騒ぎ、
機能不全を起こしかけていた。
ちなみに、
汐の起こした制御不能な器物破壊は、
損害甚大にもかかわらず、
制作上層部より、
〈現場スタッフ・関係各位には、
箝口令が敷かれ〉
一切を不問とされた。
控室であるキャンピングカーも、
以前同様、汐専用車として使用できた。
真っ先に、
脚本家から
猛烈な抗議と泣きが入り、
違約金を払って、
番組を降りるとまで言い出した。
自身のセリフを
自由に書き替えられる権利を与えられていた、
18歳女優は、
イエローレンジャーの台詞はもとより
担当していた番組ナレーション、
すべてのセリフを大胆にも
一語残さず、削ってしまった。
聖林プロの社長や、
顧問辯護士の説得にも応じなかった。
契約を盾に、
汐個人で依頼した人権派弁護士を立てて、
硬軟使い分けて押し切った。
・・かくも・・
南禅寺監督のやり方には、
肌合いの違いを感じていたし、
形容できないくらいの反発を覚えていた。
売れっ子脚本家の抗議は正当なものだった。
各話をキビキビ転がしていくため、
イエロー汐を巧みに使い、
キレのある長台詞と
モンタージュで淀みなく処理する。
さらに、
導入部や筋の込み入った部分を
テキパキと濃いナレーションで補完。
両方の役割を、
レンジャー中
唯一のプロフェッショナル、
笹森汐に担ってもらっていた。
他レンジャーではこなせない・・
替えの全くきかないピースなのだ。
『~凸レンジャー』という、
プライムタイム放送予定の、
CM込みで54分間のCG特撮番組は、
┃南禅寺監督の破天荒な提案と、
売れっ子脚本家との、共鳴握手によって┃
二時間ドラマ〈100分弱〉の内容を、
一時間枠〈正味48分〉に圧縮して提供する運びとなり。
結果、増大した情報量を時間内に収める手段は、
異常に速いテンポでストーリーrunさせるしかなく、
汐の持つDJ側面、
流暢でシャープな発声は、
ナラタージュにとって必須であった。
また、ありがたいことに、
ラフに流した脚本箇所も、
彼女は、うまいことリカバリーしてくれるし、
粋なフレーズを
アドリブで嵌め込む才にも長けていた
まっこと頼もしい存在であった。
━⌨━
そういう天の配剤を味方につけた脚本家は
イマジネーションを操り、
面白い物語構築をベースに、
細心を凝らし、
ひたむきレンジャー’S〈赤・青・桃〉のために、
そっけない「柱」や「ト書き」を排除。
相当量の文字数を費やし、
禁じ手とされる、
(芝居の足掛かりとなるような)
心理描写の詳しい書きこみを行い。
それだけでは飽き足らず、
もう一段踏み込んで、
片言ゼリフだけでは
アクトの進歩は望めないだろうから、
発音しにくくないよう慮った長めのセリフを、
3レンジャー向けに各週ローテで挿入。
さらに、
印象的なフレーズも、四色キャストへ均等に振り分けた。
さら、さらに、
アクセルを吹かし
執筆ドリルをカンスト回転させ、
現場任せを潔しとしない、
〈過去作の蒸し返しを極力しりぞけた新手、
もしくは、アレンジ案をひねり出し〉
ネオアクション場面を創出。
なおかつ、
戦闘中に発する印象ゼリフを紡ぐことに注力できていた。
━⌨━
¥高額ギャラに恥じないアッパレな仕事ぶりである。
それが根底から覆った!
好奇心旺盛な早起き読者のために、
スクリプトライターの宿便独白を、
追加サービスすると・・
笹森汐に信頼を寄せていたライターは、
マロ南禅寺には、
時が経つにつれ
正反対の印象を持つようになっていった。
現場では ありがちな、
脚本書き換えを
(監督の場合は書き替え)
執筆者には仁義も切らず、
当然の権利のごとき行うあの野郎には、
何度か煮え湯♨を飲まされた。
肝となる伏線絡みの場面+セリフを捻じ伏せ、
流局させ、
独自映像に差し替えてしまう、
その自己顕示欲には辟易10万点だ。
回収作業にどれだけ腐心したコトか。
脚本家魂と脳汗と努力を踏みにじりやがって、
スカし屋め。
また・・
反丸投げ主義のライターは、
契約時に盛り込ませた、
初号ラッシュを見る権利を勤勉に実行。
関係者に先駆け、
いの一番に、ラフ編集された映像をチェックしていた、詳細に。
そのたび、はらわたが煮えくり返る!
脚本には一文字たりとも書かれていない、
イエロー汐の、
望遠ショットから、
超近接あおりド°アップへの、
映像とカット割りにどんな意味がある?
そして・・
栄えなき、
クソったれ・ワースト場面大賞は、
トリックアートみたいな、
ワンカット撮影のスットコ迷宮めぐりに、捧げよう。
可哀そうに、汐坊には地獄めぐりだったろう。
━ ストーリーから浮き上がった、
━ たんに珍奇なだけの代物だ。
挙句、有能なうら若き女優に、
レジスタンストリガーを弾かせてしまった。
その上、
人様の縄張り内に、
ずかずか踏み込んできては、
「こんな画を撮りたいから
ふさわしいシチュエーションを考えてくれたまえ」
ときやがる、
巨匠気取りが!
こちとら出前持ちじゃねェーぞ。
さて両論併記。
アングルを反転させ・・
二重スパイよろしく、
裏事情をこっそりチクれば、
脚本家は表向き
「『~凸レンジャー』オンリーで邁進します」
などと殊勝なことを言っていたが、
実を申せば大宝制作による、
『人間国宝』という
大作日本映画の脚色もこっそり引き受け、
内心そちらに賭けていた。
歌舞伎の世界を舞台にしたこの異色作・・
ヒットするかどうかは別として、
世評の高い原作をベースにした、
三時間近くになるであろう
上映時間の映画が公開されれば
話題になるのは間違いない。
一流と称される監督しかり、
とりわけ役者の やる気 が漲っていた。
そしてオレ様も
お子様向き脚本屋という蔑称から脱却できる。
真の脚本家になるのだ ワッハッハ。
てな、皮算用はタイタニック号なみに転覆しつつあった。
奇妙なことに、
┃笹森汐を<スーパー戦団もの>に起用すべし┃プロジェクトの
言い出しっぺであり、
発起人で推進者の、
左近係長の所在が、
まるで掴めず、
TV局の番組担当プロデューサーは、
ひどくうろたえ、右往左往した。
そして、ついに、
満を持して、
無言を貫いてきた最高責任者、
『チャンバラ戦団/凸レンジャー』
映画版制作幹事会社のビッグショット(大物)
京映の銭函 喜一社長が、
その鎌首をムックリ擡げたのである。
第一秘書を呼びつけ、
社長の手によるメモを
南禅寺監督へ直渡しするよう命じた。
上質和紙を用い、落款まで押された仰々しいものだ。
メモには一言 \パンチラ/ と筆書きされていた。
第一秘書の目が点になった。
「ワシゃ知っとるぞ。
革新的なロボットアニメを生み出した総監督は、
視聴率狙いの
強引なスポンサー命令に従ってだな、
サービスカットをひねり出し、
主人公のガールフレンドにパンチラさせておる」
秘書は咳払いをして、
「しかし社長、
あれは1979年、
昭和時代の作品ですから可能だったのであり、
令和の現代では難しいのではないでしょうか?
放送コードも当時とは比較にならないほど
厳しくなっておりますし・・」
「このクソバカタレが!
タコのクソ
イカのスミ
小童のくせして、
へ理屈をこねるでない!」
銭函社長は立派なデスクを
野球グラブのような分厚い手で打ち鳴らした。
「娯楽作品に甘い果実は必須なのだ。
よーく聴くがいい!
総監督はだなぁ、
GFが爆風に巻き込まれるという
不自然でないシチュエーションを設定して、
パンチラを実現させておるワ。
君ィ、なにごとも、創意工夫なのだよ。
『ジョーズ』を監督した、
若きスピルバーグの演出手腕を見るがよい!
海面に映じた太陽を、
クイント船長が大刀で真っ二つにするショットには、
オルカ号の先行き不安を暗示する、
紛れもなく、本物の才能が刻印されておる。
これこそ真しく映像の極意!
クリエイティビティこそが観客に刺さる肝なのだ。
南禅寺によーく伝えておけ。
以上だ、さがってよろしい」
言い終えると、
いつもの如く、
社長付(美人)女性秘書におやつを運ばせ、
大好物のメロンパンにかぶりつき、
コーヒーを飲んだ☕




