〜お家&映画デート〜
「はあああぁぁっっ。」
エマは何度目か分からない重いため息をはきだした。
モモハが隣の席からエマの顔を覗き込む。
「エマちゃん。谷口くんと喧嘩でもしたの?」
「…」
「モモハ、エマは谷口とハグしそこなったのよ。」
「…それだけで?喧嘩したわけでもないのにこんな落ち込んでるの?」
「あの、数学教師め…!!!!」
怨念がこもりまくった声でエマが言い、机を拳でドンドン叩く。
「誠也も誠也だよっ!!逃げちゃってさ!何そんなに嫌だったの…!?」
自分の言葉に更に落ち込んでしまう。
モモハがおろおろして彼女の背中をさする。
「でも映画デートの約束には漕ぎ着けたんでしょ?」
友人の一人が尋ねると、 机に突っ伏していたエマがバッと起き上がる。
「そうだったわ!!!あ、折角だったらお家の映画デートにしよっかな〜」
つい15秒前とは打って変わり、どうしようもなくニヤついた、もとい、キラッキラの笑顔だ。
そんなエマを友人達は呆れた表情で見る。
(((単純…)))
その場に居る誰もがそう思った。
〜放課後〜
「やっぱこれ着よっかな〜♪♫」
エマは鏡の前で服を体に当てながら選んでいた。
いつになく気合いが入っているのはこの後が、誠也と
お家&映画デートだからだ。
「よっし、やっぱこれにしよ!」
一時間かけて決めた服。胸元が大きく開いたTシャツとミニスカート。男子の諸君はきっと、(そんなんで一時間もかけるとは…!!)と思うかもしれないが、恋する乙女にとっては足りないくらいである。
ピンポーンピンポーン
「はーい、ちょっと待っ」
「ヤッホー」
玄関から出てきた誠也は凍りついたのであった。
「…エマ?」
絞り出した声で呟くと、
「私が誰に見えるのよ?あ、まさか私以外の奴と約束してたの!?」
翡翠色の大きな目をつりあげ、口を片方だけ膨らませるという、器用な事をしてみせた。彼女ははどんな顔でもとても可愛い。自分がそう思った事に気づき、あたふたする。
そして、ホントは映画の約束そのものを忘れていたなど口が裂けても可愛い彼女には言えない。
「あ、い、いや違うって。てか映画館に見に行くんじゃ…」
「ん?違うよー。お家&映画デートだよん❤️」
エマが後ろから答える。
(ん、後ろ?)
パッと振り向くと既に玄関に上がっていた…。
いつものことだが。
「あれー?誠也ママは?」
「いないよ。両親は出張行ってる。」
「ふーん。」
興味のなさそうな言葉とは裏腹に酷く嬉しそうな顔をしたように見えたのは気のせいだろうか。
彼女が、思い出したように、誠也にクリーム色の箱を差し出す。
「はい。シャロンのマドレーヌ。誠也好きでしょ?」
エマはこんなこともちゃんと忘れずにする。
りんごジュースをコップに注ぎ、テーブルに置く。彼女はソファの上で伸びをしていた。むき出しの白くて長い足が目に眩しい。向かいに座ると、エマが隣をポンポンとする。
「なんでそっち行くのよ。隣来てよ。」
数秒固まったのち、のろのろと身体を動かし隣に腰を下ろす。それだけで顔が熱くなる。今にも触れそうな距離にエマがいる。それだけでドキドキが高速になるのだ。
「…誠也?誠也!」
「へっ!?」
「へっ!?じゃないよ!映画何見るー?」
「なんでもイイけど」
そう言ったことを誠也は後ほど後悔することになる。
「そう?じゃ私決めちゃうねー」
地獄だ。誠也は本気でそう思った。今は、エマが決めた映画を観ている。ただ今、キスシーンである。
(なにこれ!!!はずっ!!恥ずいんだがっっ!!!こんなんを女子は観てるのか!?)
女子に失礼である。
チラリとエマを見ると、エマもまた誠也をジッと見ていた。バチっと目が合う。
(顔ちけーよ!!!ギャァ!!)
なんと目を閉じて顔を近づけてくるのである。
まるで映画の今のキスシーンみたいな…。
(え?え?え!?き、キスゥ!?!?)
顔どころか体中が沸騰したように熱い。
彼女は辛抱強く待っている。
パニックになってしまう。目の前の唇から目が離せない。
(エマがして欲しいならするか?)
そんな事が脳裏にうかび、慌てて打ち消す。
(無理だ。できない。)
あんなにパニクっていたのにするっと言葉が口から出てきた。
「ごめん。」
エマがうつむく。
映画では今、ヒロインと主人公がハッピーエンドを迎えて、輝くような笑顔なのに。なのに自分達はどうしちゃったんだろう。自分でも分からない、打ち消せないモヤモヤが胸の中に広がる。
「ごめん。」
もう一度小さく呟いた。
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