夜会 ②
「――不届き者め。王家主催の夜会を、貴様らの醜聞の舞台にするとはな」
冷徹な声とともに、国王陛下の側近である近衛騎士団長が数名の騎士を従えて足を踏み入れた。
エリザベス様が王家の権限を背後に控えている以上、もはやルーカスとカーラに逃げ場など存在しない。
「トレント公爵閣下、王太子妃殿下、そしてノーベルト侯爵令嬢……。王国を揺るがすこの殺人未遂、不義と隠蔽の罪、徹底的に究明させていただきます」
騎士団長が合図を送ると、武装した騎士たちがルーカスとカーラの両脇を固めた。
もはや抵抗する気力すら残っていなかったのだろう。ルーカスは地面に視線を落としたまま、泥人形のように力なく連行されていく。
カーラに至っては、「いや、離して! わたしは悪くないわ!」と見苦しく喚き声をあげたが、周囲の冷ややかな視線と冷徹な騎士の手によって、そのまま引きずられるように会場から締め出されていった。
静まり返った会場に、乾いた拍手の音が響いた。
振り返ると、そこに立っていたのは、いつの間にか群衆をかき分けてやってきた我が両親と兄だった。
「お前という娘は……派手にやってくれたものだな、イライザ」
その顔には苦々しい苦笑いと、ほんの少しの誇らしさが入り交じっている。
「イライザ……心配したのよ。やっとあなたに会いに来れたわ」
お母様は記憶の中とは違い、シワが増え疲れて見えた。
――ずっと心配してくれていたのかしら?
「まったく、心配ばかりかけやがって」
ふだんあんなにクールな兄様が、大粒の涙をこぼしていた。
「お父様。心配しなくても、我が家の名誉はちゃんと守って差し上げましたわ」
わたくしがふふんと胸を張ると、父は盛大な溜息をつきながらも、優しくわたくしの頭に手を置いた。その温かさに、胸の奥がじんわりと熱くなる。……あの冷たかった父が、いつの間にかこんなにもわたくしを気にかけてくれていたのだと、今なら素直に受け止められた。
「お見事でしたよ、イライザ嬢」
隣でレイモンド様が、悪戯っ子のような、それでいてゾッとするほど美しい笑みを浮かべて囁いた。
漆黒の礼服の裾を翻し、彼は紳士的に一礼する。
「だが、これで終わりではない。奴らが持っていた伯爵家の特権や資産、そして何より社会的信用――すべてを剥ぎ取り、一文無しにしてこそ、本当の復讐だろう?」
「ええ、もちろんよ。あんな人たちに、これ以上この国の空気を吸わせるわけにはいかないわ」
わたくしはレイモンド様の手を取ると、鮮やかな深紅のドレスを揺らしながら、再び誇り高く顔を上げた。
三年の眠りは長かったけれど。
目を覚ました今のわたくしは、もう誰にも踏みにじられることのない、真の主役なのだから。




