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三年間の眠りから目覚めたので、あなたの新しい家庭ぶっ壊します  作者: 花


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惨めな現実。

 思い出したのは、ルーカスとの結婚と娘がいること。そして、それが愛のない結婚だったらしいという記憶だけ。


 他には何も思い出せない。


 どうしてわたくしはここに居るの?

 せめて自分の部屋で過ごさせてくれればいいのに。考えただけでイライラしてきた。

 体が不調でなければベッドから立ち上がり、すぐにでもお父様に文句の一つでも言ってやるのに!


 何年も眠り続けたからなのか、ずいぶん気が長くなったものだわ。


 足をそっと動かしてみる。重たく感じるけれど、思ったよりは動く。


 よし!まずはトイレへ行って、シャワーを浴びてスッキリさせましょう!


 薄暗い灯りの中、重い体に鞭打ってなんとか起き上がり、床に足を下ろした。

 ベッドフェンスに手をかけ、立ち上がろうとした――その瞬間。


 ドタッ!!


 思いっきり木目の床に倒れ込んでしまった。

 足に全く力が入らない。


 起き上がろうと焦るけれど、膝が笑って力が入らず、立ち上がることすらできない。


 声を出そうにも、かすれた声しか出ない。

 手を伸ばしても、ベッドサイドテーブルの呼び鈴には到底届かなかった。


 ……つまり、誰かが来てくれるまで、このまま動けないということ。


 侯爵令嬢として生まれ、好き勝手に生きてきたわたくしが、床に姿を這わせたまま身動き一つ取れないなんて。


 悔しくて、涙が溢れ出してきた。


 思うように動かない体。何も分からない状況。これからどう生きていけばいいのかも見えない絶望に、心の中はぐちゃぐちゃだった。


「……誰か……助けてよ……。ルーカス、あなたわたくしの夫なんでしょう?助けに来なさいよ……」


 ああ、そう言えば目覚めたというのに、お母様もお兄様も姿が現れない。


 わたくしの意識が戻ろうと戻るまいと、どうでもいいのね。


 あの二人は領地で暮らしていたもの。すぐに来られるはずがないわ。

 お父様とお母様の仲は冷え切っていて、領地運営はお母様が行っていた。お兄様はその補助だ。


 わたくしは退屈な田舎で暮らすより、王都の華やかな雰囲気を好み、王都の屋敷でお父様と暮らすことを選んだ。


 王立学園での日々は楽しくて、毎日友人たちと遊び回っていた。


 お兄様はとても優秀だったのに王立学園を選ばず、隣国の学園へ留学したのだったわ。


 わたくしには理解できなかった。この国で社交することこそが、貴族として生きる上で一番大切なのではないかしら?顔を広げ、良好な関係を築き、利になる人と親しくなること。


 けれど、長期休暇に領地へ行くと、お兄様はたくさんの友人たちを招いて楽しそうに過ごしていた。あれも一つの社交なの?どう見ても、ただ楽しんでいるだけにしか見えなかったけれど。

 ……もっとも、友人たちと遊び歩いていたわたくしが言えた立場ではないけれど。

 お兄様と、たまに目が合うことがあった。わたくしを見るその瞳は氷のように冷たかった。

 あれは……そうね。愛する妹を見る目ではなく、まるで大嫌いな虫でも見るような目だった。

 お母様は仕事が忙しく、わたくしには無関心だった。

『あら、来たのね』


『少しは兄を見習って手伝いなさい』

『え?嫌よ』

『ふう……期待なんてしていないわ。ここに居てもいいけれど、問題を起こして仕事の邪魔はしないでね』


 大きなため息と、諦めを含んだ言葉。

 あの頃のお母様は、どんな顔をしていただろう。

 もう6年以上も前のことなのに……わたくしにとっては、ほんの最近のことのように思える。


 ついこの前のことのはずなのに、なんだか遠い昔のような気もしてくる。


 なぜかしら。みんなの顔がぼやけて、思い出せない――。


 ああ、また……意識が遠のいていく。


 ✴︎ ✴︎ ✴︎


 翌朝、メイドのリーンはイライザの世話をするために部屋の扉をたたいた。


「お嬢様?」

 いくら待っても返事がない。


 まだお休みになられているのかもしれない。

 そう思い、一度は諦めてその場を立ち去った。


 1時間後、そろそろお召し上がりになる時間だろうと、朝食のトレイを抱えて再びやってきた。


 けれど、やはり部屋の中から返事はない。耳をすませてみても、物音ひとつしない。

『返事がなくても、そろそろ起こして差し上げなさい』


 メイド長にそう言われていたのを思い出し、もう一度ドアをノックしてから、ゆっくりと扉を開けた。


「――っ!?」


 床に倒れているイライザの姿があった。

 ピクリとも動かない。


「お嬢様……!?」


 やっと長い眠りから目覚めたばかりのイライザが、冷たい床の上に倒れている。


 ガタガタと全身を震わせながら、リーンは悲鳴をあげた。


「誰か!!お嬢様が!!早く来てください!!」












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