よし!
エリザベスとの久しぶりのお茶の時間は楽しかった。
三年間眠っていた知らなかった出来事を訊いて、お父様に対しても少しは見方が変わったわ。
だからと言ってずっと放置されて心配すらしてもらえなかったことは恨んでいるわ。
22歳だけど、精神年齢はまだ16歳なんだもの。
エリザベスと会った時も本当はすごく老けたわね、と思ったけど言わなかったわ。
言えばまたうるさいし、面倒なことになるだけだもの。
でもまさかエリザベスが妃殿下になるなんて……王太子との婚約なんて絶対嫌だと言ってたのに。
今ではとても仲の良い夫婦として、国民にも慕われているらしいわ。
わたくしの前では、素が出ていたけど。中身は相変わらず豪快で口が悪かったわ。
✴︎ ✴︎ ✴︎
楽しい気分でアビナ様のお屋敷に帰ると、アビナ……先生が仁王立ちしていた。
「先生、なにか……ありました?」
「イライザ様! どうしてまた出歩かれたのですか? ファーマン伯爵があなたを探しているのはご存知でしょう?」
「ああ、もうそれは大丈夫です。彼が会いに来たなら受け入れますわ……あ……それなら……帰るのは侯爵家の方になりますよね?」
思わず声が小さくなった。
嫌だ、帰りたくない。
アビナ様のそばはとても居心地がいい。
まるでお母様と一緒にいるみたい。実の母に甘えることがなかったからなのか、アビナ様にはついわがままを言えるし、好き勝手できる。
怒るととても怖いけど、頑張ったら抱きしめて褒めてくださったわ。
ふと思い出す。
お母様には、わがままはよく言ったけれど、アビナ様のように心から打ち解けられなかったわ。
あの人には、兄様しか見えていなかったもの。
それに、お互い離れて暮らしていたし、会いに行ってもどこか居心地が悪くて、わたくしはあの頃も遊び歩いていたわ。
ほんと、どうしようもない娘だったわ。
わたくしの顔が曇っているのを感じたのか、アビナ様の手が優しく頬に触れた。
「記憶が戻ってきたと聞いたわ。全て思い出したかしら?」
「全てではありませんが、大体のことは……」
「だから王太子妃にお会いになられたの?」
「はい……彼女ならお父様の顔色を気にせず本当のことを話してくれると思ったのです」
リーンもトムもはっきりと言えず、口を濁らせて話すしかなかった。
お父様が侯爵家の当主で彼らの主人なのだから、たとえわたくし付きであっても、主人から話してはならないと言われれば全てを話すことはできない。
だからルーカスの現状やお父様達のことも訊いてきた。
まあ、それなりに収穫はあったわ。
だからルーカスに堂々と会うことができる。
でも……
「先生、まだ、イザベラの家庭教師は続けたいの。あの子もやっとわたくしに慣れてくれて、笑顔を向けてくれるようになったから……まだまだいろいろと教えてあげたいわ」
「イリア先生はとても評判がいいのよ。わたくしのところにも問い合わせが来ているわ。『ぜひあなたに教わりたい』と言ってきているけれど、どうする?」
「………これから独り立ちするにはいいかもしれないわね。何もしないで穀潰しだなんて思われたくはないもの」
ふと両親の顔が浮かぶ。
離婚され、この三年迷惑ばかりかけて、行き場もないわたくし。社交界では、わたくしが目を覚ました(意識を取り戻した)ことが噂され始めていた。
『――夫に捨てられたのは、あまりにも家庭を顧みなかったから』
エリザベスから聞かされた噂に、怒鳴り込んでやりたい衝動に駆られた。
だけど、そうすれば今度は「浮気をされた惨めな元伯爵夫人」になってしまう。
意識を取り戻してみれば、元夫は友人に寝取られていた。娘も母の顔すら覚えていない。
なんて惨めなのかしら。
みんなの笑い者だわ。
だけど、エリザベスは不敵な笑みを浮かべた。
「任せなさい。わたくしがあなたの味方よ。噂なんて簡単に誘導して変えてあげるわ。不貞を働いた二人を悪者にすればいいだけでしょう? 今度のお茶会に高位貴族のご婦人達が集まるの。みんなイライザの話を聞きたがっているでしょうから、しっかり『事実』を話してあげるわ」
彼女はそう言うと、グイッと紅茶を飲み干した。
「待っていなさい」
エリザベスが動いてくれるなら、わたくしはルーカスと真っ向勝負よ!
「先生、数日、侯爵家へ帰ります」
「はいはい、どうせまた帰ってくるのでしょう?」
「……よろしいのですか?」
アビナ様の顔に、温かい笑みが溢れた。
わたくしは思わず先生に抱きついた。




