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三年間の眠りから目覚めたので、あなたの新しい家庭ぶっ壊します  作者: 花


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無視よ!無視!

 ここは?」


「ああ、よかった」


 リーンが涙を潤ませてわたくしを覗き込んだ。


 キョロキョロと周りを見ると見慣れない部屋。


「アビナ夫人の屋敷にいます。お嬢様、トムも私も休みの日にどうして勝手に外出するのですか?しかも、ルーカス様に会ってしまったというではないですか?」


「………目が覚めた瞬間文句を言わないで!」


 もう! 今頭の中はグチャグチャなのに!


 いろんなことを思い出しすぎて吐きそうだわ!


「ゲホっ」


 嗚咽しても胃の中は空っぽみたいで、胃液しか出ない。


 ああ、気持ち悪い………胃がムカムカする。


「お嬢様!申し訳ありません………」


 リーンは慌てて背中を優しく摩ってくれた。


 リーンの大きな声に駆けつけたのはマーカス先生だった。


「おっ!起きたか?」


 マーカス先生は「ったく、お前は自分の体調も考えずに外に出て!お前とうとう目覚めたことがバレたらしいな」と毒づいた。


「心配してくださらないの?」


「は?好き勝手したお前を心配してどうする」


「でも、誰もわたくしが目覚めたことは秘密にしているなんて話してくれなかったわ!」


「は?知らなかったのか?お前は外に出る時は変装していただろう?」


「それは、イザベラの家庭教師としてルーカスの屋敷に出入りしないといけないから、バレると困るでしょう?」


「バレてはいないのか?」


「ええ、もちろんよ」


 わたくしの演技を見せてあげたいわ!


 サラはわたくしを先生として慕ってくれているのよ。


 素直で可愛らしくて、まるでわたくしの性格に似ていなかったわ。


 ホッとしたわよ!


「…………よくバレなかった……本当によかった……もう行ってはならん。わかったな?」


「あら?行くわよ?わたくし、イリア・フォード準男爵令嬢として家庭教師をしているの。ルーカスたちにはバレていないわ。執事のロミオなんてわたくしと話す機会があっても気づかないわよ?」


 ドヤ顔でマーカス先生に言うと、先生は呆れながら首を横に振った。


「いつバレるかわからない。それにルーカス殿はなんとか君と会おうとしているようだ」


「どうしてルーカスを怖がる必要があるの?不貞を働いたのも、わたくしが倒れても放置していたのも全てあの二人。わたくしは何も悪いことはしていないわ」


 まあ、家庭教師がわたくしだとバレたら面倒なことになるのは確かだけど。




 ✴︎ ✴︎ ✴︎




 いつものようにいつもの時間になるとイザベラのところへ向かった。


 伯爵家の屋敷はいつもと変わらなかったわ。


 重苦しい空気もないし、使用人達の様子もいつも通り。


 カーラ様は2階の自室から出てこないし、ルーカスは執務室で仕事をしているようだわ。


 イザベラは相変わらず可愛らしく、今日はダンスと歌のレッスンをするつもりよ。喜んでくれるかしら?


 まだ5歳の女の子に詰め込み式の勉強はさせたくない。

 勉強が好きで楽しいと思うところから始めれば、自然に勉強が苦にならなくなるわ。


 わたくしだって、全ての勉強が嫌だったわけではない。ただ、嫌いな教科はやらなかっただけだもの。


 代わりに好きな教科はとても努力したわ。


 外国語だって楽しかっただけではなく必死で覚えたし、数式だって難しくなると嫌になって逃げ出したくなるけど、数学が好きだったので頑張ったわ。


 ただ、歴史や国語が苦手だった。


 面白くもない本を読むのが嫌いなのよね。小説や物語ならいくらでも読むんだけど。それに覚えるのが嫌になるもの。好きなことは覚えられるのに……


 そんなことを考えながらイザベラの部屋に入ろうとしたのがいけなかった。


「失礼致します」


 ノックしていつものように扉を開けて部屋に入ると「???」と呆然として声が出なかった。


(間違えた!)


 気づいたのにもう遅かった。


 部屋の中に入ってしまっていた。


 ここはルーカスの執務室。結婚している時は何度もこの部屋に来ていた。


 無意識にここへ来てしまった。イザベラの居る部屋とはかなり離れているのに……


「も、申し訳ございません………考えごとをしていて、何も考えず開けてしまいました」


 顔が赤くなったり青くなったり、忙しく顔色が変わっていくのがわかる。


 ルーカスは机に座り、ペンを握り書類を読んでいるところだった。


 わたくしに気づいて顔を上げ、少し黙っていたが、ふっと笑った。


「ここは、イザベラの部屋とはかなり離れているはずだが?」


「は、はい……なぜここに来てしまったのでしょう……、ね」


 言い訳したくても出来ないわ。


 あまりルーカスと話をしたくないわ。


 変装はしていても声は変わっていないわ。話し方だって特に変えてもいない。


 今までバレないと安心し切っていたもの。


「まぁ、よかったらそちらに座ってくれ。すぐにお茶の用意をさせる」


 えっ?座る?どうして?


 キョトンとして固まっていると、肩をすくめて笑った。


「別に君を叱るつもりはない。イザベラが最近明るくなってよく笑うんだ。君のことが大好きみたいでよく話してくれる。感謝しているんだ」


 感謝?わたくしに?この人が?


 わたくしを裏切ってカーラ様と浮気していたこの男に感謝される?


 ああ、気持ちが悪い。


 どうやってわたくしの前で跪き泣いて縋らせてやろうか?惨めな姿を見てやりたい。


 わたくしの手は強く握りしめられ、爪が手のひらに食い込んでいた。


 わたくしを放置して死なせようとしたこの夫婦に、この世で一番辛くて苦しくて惨めな思いをさせてやりたい。


 そう思うのに……イザベラの悲しむ顔が浮かんでしまう……のはなぜかしら?

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