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三年間の眠りから目覚めたので、あなたの新しい家庭ぶっ壊します  作者: 花


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あ、ああああ!!!

「サラ、買い物へ行きましょう!」


 ルーカスの屋敷から帰ってかつらを脱ぎ捨て着替えると、サラを誘った。


 リーンは今日、休暇を取って実家に帰っていた。


 トムも外出中で、小煩い二人がちょうどいない。


 久しぶりに「イライザ」として外出することにした。


 屋敷の者には「おやめください」と止められたが、「うるさいわね! わたくしに意見を言うなんて100年早いわ!」と叱りつけた。


 イライラを使用人にぶつけるなんて、主人としてやってはいけないことだとわかっていた。

 でも、先ほどのルーカスやカーラのことを思い出すと、どうしても我慢できなくなる。


 ピンクブロンドの髪を綺麗に纏めてもらい、久しぶりに派手なドレスを着た。 


 なのに……。


「ねぇ? わたくしのこの姿、なんだか変よね?」


 メイドの顔をチラリと見て訊いた。


 鏡に映るわたくしは、6年前のことしか覚えていない自分にとって大人で、少しだけ見慣れない時もあるけれど、とても美しいはず。


 なのに、どうしてか最近の自分の姿に慣れてしまっていた。


 簡素に見えるワンピースも、落ち着いた大人のドレスも着こなせていた。


 素顔に近いナチュラルなメイクも自然で、好きになっていた。


 だから、鏡の中に映る派手すぎるメイクやド派手な髪型は、見ているだけで疲れてしまう。


「はあ……ふぅ…………元に戻してちょうだい」


 メイクを落として、いつもの自然なメイクに変えた。髪型もひとつに結び、その結び目に緑色のリボンを結んでもらう。


 街に行くのに派手なドレスは必要ない。


 今一番お気に入りの、黄色い小花柄のワンピースを着ることにした。


「うん、これで決まりね」


 サラにも残りの生地と、足りない分は別の白いレース生地を使って、ワンピースを作ってあげていた。


「はい、サラはこれを着なさい」


 サラは可愛らしいスカートがふわっと広がるワンピースを、嬉しそうに着てくれた。


「これはわたくしが縫ってあげたのよ。わかる? 感謝しなさい」


「はい! ありがとうございます」


 サラがクルクル回って、イライザに嬉しそうに見せた。


「さすがわたくしね。なかなか上手く出来ているわ」


 少しご機嫌が良くなったイライザは、侯爵家の馬車に乗り、街一番の大きな建物へと向かった。


 そこは宝石からドレス、絵画や高級家具、他国の珍しい輸入品などが取り揃えられている場所だ。


 数年前にできたと聞いていたが、立ち寄るのは今日が初めてだった。


 侯爵家の家紋入りの馬車から降りた時点で、わたくしはVIP扱いで店内へ通された。


 外観も高級感が漂っていたが、中はさらに圧巻だった。


 深緑の絨毯は足音をすっかり吸い込み、磨き上げられたダークウッドの壁面と、細部まで繊細な彫刻が施された真鍮のフレームが重厚な佇まいを見せている。


 スポットライトに照らし出されたショーケースの中身はもちろん、それを引き立てる陳列台の質感から照明の角度に至るまで、客を魅了してやまない。


 サラを連れてきたことを少し後悔した。


 子供が来るべき場所ではなかったわ。


 しかも貴族のマナーを知らないサラには可哀想なことをしたと、思わずサラの頭を優しく撫でた。


 だけど、サラは騒ぐことも大きな声を出すこともせず、わたくしのスカートの裾をギュッと握りしめて静かにそばに立っていた。


 この子は空気が読める。普段は大きな声で笑うし、よくおしゃべりもする。

 だけど、小さいながらに話してはいけない場所では声を出さず、お利口にしていてくれるのだ。


「サラ、行くわよ」


 たとえ簡素なワンピースを着ていようと、よく見ればわかる。


 この生地は海外の手に入りにくい品で、たぶんこのお店でもなかなか仕入れることはできないはずだ。


 お兄様の友人が、いつか目覚めるであろうわたくしのためにお見舞いとして贈ってくれたものだった。

 目覚めて暇だったわたくしは、どんなお見舞いの品があるのか興味津々で物色した。

 その中でも、この布地がとても気に入ったのだ。数種類の柄の布地はどれも手触りが良く、丁寧に作られていた。


『レイモンド・トレント』――彼からの贈り物だった。

 そう、お兄様の友人で、長期休暇に領地に行くと必ず居た隣の国の貴族令息。


 よく知らないけれど。


 彼がわたくしにお見舞いを? 顔を合わせればニヤッと笑い、意地悪なことを言う彼が。


 最後に会ったのは……わたくしの結婚式だったわ……。


 …………⁉︎


 結婚式の時の風景が、突然頭の中に浮かんできた。


 愛のない、淡々とした結婚式。


 ルーカスは感情をどこかに置いてきてしまったかのように無表情。


 わたくしは我儘を言って彼を夫にしたのに、あまりの彼の態度に腹を立てた。


『これは政略結婚よ! 貴方はわたくしのおかげで伯爵家に利益をもたらすことができるのだから!』


 彼の目の前で、高圧的な言葉を投げつけた。


 本当は傷ついていた。


 愛はなくても、お互い信頼しあえる関係を築ければと思っていたのに。


 なんでこんな時に思い出すのよ!

 わたくしは買い物の途中、頭が痛くなり吐き気を覚えた。

 頭が痛い。ぐるぐると目が回る。


 気持ちが悪い。嫌よ! もう思い出したくもないわ!


「イライザ様!」


 使用人の声が聞こえる。


「やぁぁ!」


 サラが驚いて泣き出した。


 ごめんなさい、驚かせてしまったわね。


 気を失う前、サラに優しく微笑んで見せた。


「イライザ!」

「なんでここにいるのよ!」


 聞き覚えのある声が離れたところから聞こえる。今は聴きたくない、一番嫌な声たちだった。

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