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三年間の眠りから目覚めたので、あなたの新しい家庭ぶっ壊します  作者: 花


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え?バレたかしら?

 イザベラが眠りについたのを見届けてそっとベッドから抜け出し、「いい夢を見てね」と優しく囁いた。


 やっぱり子供の寝顔は可愛らしいわね。


 わたくしが離れてしまわないようにと、小さな手で服を固く掴んで離そうとしなかった。

 眠ってからも力の緩まないその手をそっと解いたけれど、手がピクッと動いた時は「まずい!」と心臓が跳ね上がった。

 

 でも、スヤスヤと規則正しい寝息を立て続けたので胸を撫で下ろす。


 寝室の外で待機していたメイドに「帰ります」と告げ、部屋を後にした。


 廊下を歩いていると、目の前から……


 会いたくない、けれど一度は会ってみたかったルーカスが歩いてくるのが見えた。


 俯いて目を合わせないように歩く。


 すれ違う間際、通路の端に寄って頭を下げ、彼が目の前を通り過ぎるのを待った。


 使用人が屋敷の主人に自分から声をかけることはない。頭を下げて通り過ぎるのを待つのがこの場の常識だ。おかげで怪しまれることもなく、顔を合わせずに済むはずだった。


「……君は……」


 それなのに、彼はピタリとわたくしの前で足を止めた。

 今、この廊下にいるのはわたくしだけ。


(ど、どうしよう!?)


 ドクッドクッと、心臓の音がうるさいほど跳ね上がる。


「……はい。イザベラお嬢様の家庭教師をしております、イリア・フォードと申します」


 なんとか自然な声を作って答えた。


「ロミオから、イザベラが楽しく授業を受けていると話は聞いている。これからもよろしく頼む」


「はい、精一杯努めてまいります」


「………」


 な、なんで立ち去らないのよ? あっちへ行ってよ! さっさとどこかへ行きなさいよ!!


「あ、あの……他に何かございますでしょうか?」


 耐えかねて、こちらから問いかけた。


「………君、どこかで会ったことがあるかな?」


「わたくしは準男爵家の娘です。この国の中心である王都で、貴族のパーティーやお茶会に呼ばれることなどございません」


 ほぼ平民のような身分が、高位貴族の社交に参加できるわけがないでしょう!?


 そんなことも知らないの!?


 だんだん腹が立ってきた。いいからさっさとどこかへ行ってしまえ! あんたなんかと話したくもないわ!


「君の声は……」


「わたくしの声!?」


 あっ! 声を変えるのを忘れていた!

 う、裏声……? 今更かしら?


 ああ、でもどうせわたくしの声なんて覚えていないわよね。思い出した記憶の中でも、仲良く話したことなんて一度もなかったもの。


 十三歳で婚約したあとも、わたくしに興味を示したことなんてなかったじゃない。


 無理やり侯爵家の力を使って結んだ婚約だったから、義務感だけで付き合っていただけ。ルーカスから話しかけてくれたり、優しくしてくれたことなんて一度もなかった!


 思い返すほどに悔しくて、涙が出そうになる。

 元夫の屋敷で、自分が産んだ娘の家庭教師をしているだなんて。元友人が今のルーカスの妻で、イザベラの継母だなんて……よく考えたら悔しくて仕方がないわ。


 リーンには「今更何を言ってるんですか?」と呆れられるかしら。

 トムからは「お嬢様、わかっていたことでしょう?」と鼻で笑われそう。


「ああ、すまない。もう会うこともない人のことを思い出すなんてな。……もう帰っていいよ」


「……はい、失礼いたします」


『会うことのない人』………その言葉が胸にグサリと刺さった。


 そんなに会いたくないの?


 少しは心配しなさいよ!


 わたくしの意識が戻ることなんて、絶対にないと思っているの!?


 あんな奴、大っ嫌い! 嫌いよ! 大っ嫌い!!


 門の外で待っていた、家紋のついていない使用人用の馬車に飛び乗り、「早く出して!」と御者に叫んだ。


 唇を強く噛み締める。


 じわりと血の味が広がった。


 ドレスのスカートにぽろぽろと零れ落ちて染みを作っていくけれど、これは涙なんかじゃない。


 そうよ、寒くて鼻水が垂れただけだわ。


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