第12話 旧世界の亡霊
特位聖騎士ヴァン・フォンシオンとの死闘から数日後。
黒の騎士団の第3席ビリリオスと、イレギュラーであるレオの二人は、世界政府の監視網を避けるため、人気のない荒野の廃墟地帯を歩いていた。
二人の間には、重苦しく険悪な空気が漂っている。
「……おい。いつまでこんな埃っぽい瓦礫の山を歩く気だ。検問所くらい、あんたの魔法なら強行突破できるんじゃないのか」
レオが瓦礫を蹴り飛ばしながらぼやく。
「馬鹿を言え。特位を退けたとはいえ、世界政府の警戒度はかつてないほど跳ね上がっている。ここから東へ向かうには、この旧時代の遺跡群を抜けるのが一番確実なのだ」
「東の隔離区域って、そんなに厳重に守られてるのか?」
「逆だ」
ビリリオスは鼻で笑い、瓦礫をまたぎながら答える。
「あそこは、世界政府のシステムから弾かれた魔法を使えない者たち……『人成らざる者達』が押し込められた巨大なスラム街だ。奴らは政府から見下され、取るに足らない存在として扱われているため、皮肉なことに警備は手薄になっている」
「なるほど。だからあんたたちはそこをアジトに選んだってわけか」
「そういうことだ。だが、そこへ至るまでの道中を政府の目から隠れるためには、この迂回ルートを通る必要がある。……ついてこい」
二人は、崩れかけた巨大なコンクリートの建造物の中へと足を踏み入れた。
そこは奇妙な空間だった。外の荒廃とは裏腹に、内部は無機質な金属の壁で覆われており、どこか冷たい空気が漂っている。
「……なんだここは。妙に保存状態がいいな」
レオが周囲を見渡しながら歩みを進めると、不意に部屋の中央にある黒い台座のようなものに目を奪われた。
――ピィッ。
レオが近づいた瞬間。台座に埋め込まれていた不可視のセンサーが反応し、部屋の中央に青白い光が浮かび上がった。
「なっ……敵の罠か!?」
ビリリオスが即座に戦闘態勢をとる。だが、光は攻撃してくることはなく、空中にノイズ混じりの『映像』を投影し始めた。
そこに映し出されたのは、地獄だった。
空を覆い尽くす巨大な雲。一瞬にして崩れ落ちる無数の高層ビル群。そして、黒い雨が降り注ぐ、見渡す限りの焼け野原。
「……おお。なんという悍ましい光景だ」
ビリリオスが、ホログラムの映像を見上げて畏怖の声を漏らす。
「これが伝承に聞く『神の怒り』……。旧時代の愚かな人間たちを焼き払った、古代の超魔法の記録か」
(古代の超魔法……? いや、違う……)
レオは、その映像から目を離せなかった。
魔法というより、もっと無機質で、徹底的な『破壊』そのもの。自分の生きていた時代の景色にどこか似ているビル群が、理不尽に消し飛んでいく光景。
レオの脳裏に、正体不明の強烈な違和感と悪寒が走る。
(なんだ、これ……どうして俺は、この光景にこんなにも焦燥感を覚えるんだ……?)
その違和感の正体を確かめようと、レオは無意識のうちにふらつく足取りで台座へと近づき、コンソール(操作盤)へと手を伸ばしてしまった。
「おい、触るなッ!」
ビリリオスの制止は一歩遅かった。
――ピーーーーーーッ!!!
レオの手が触れた瞬間、鋭い警告音が鳴り響く。
直後、部屋全体を不可視の衝撃波――強烈な電磁パルスが駆け抜けた。青白いホログラムが掻き消え、遺跡内のわずかな照明も完全に沈黙する。
「……ッ! 貴様、何をした!?」
暗闇の中でビリリオスが怒鳴り、レオの胸倉を掴もうと魔法を練り上げる。
だが。
「……なっ?」
ビリリオスの声が、間抜けにひっくり返った。
何度試しても、魔力が指先に集まらない。それどころか、自身の身体を巡っていたはずの『何か』が、完全に遮断されたような恐ろしい喪失感が彼を襲った。
「馬鹿な……俺の魔力が……『魔法』が、消えただと……!?」
圧倒的な強者であったはずの黒の騎士団の幹部が、ただの無力な人間へと引きずり下ろされた瞬間だった。
第2章の幕開け、最後までお読みいただきありがとうございます!
東の隔離区域へ向かう道中、旧世界の遺跡でレオが見た「神の怒り」の映像。彼が感じた違和感の正体とは……?
そして、突如として魔法を完全に失ってしまった第3席・ビリリオス。
圧倒的な力を持っていたはずの彼が無力化し、頼れるのはレオの持つ「データ」と身体能力のみ。この絶対絶命の暗闇の中で、二人は生き残ることができるのでしょうか!?
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次回、暗闇からの強襲。どうぞお楽しみに!




