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第85話 朝の掲示板

現実世界。


朝。


通勤時間。


『忘れないための記録板』には、夜勤組の記録が静かに残っていた。


『駅、少し黒かった』


『名前確認で落ち着いた』


『今日は眠れた』


久世 恒一は、喫茶店の窓際で画面を見ている。


最近、朝に確認する癖がついた。


生存確認。


大げさではない。


ただ。


“まだいる”ことを確認する時間。


その時。


新しい投稿。


『朝の電車、少し変だった』


『人多いのに、急に静かになる瞬間あった』


返信が付く。


『分かる』


『最近増えた』


『音が遠くなる感じ?』


久世がノートへ書く。


『朝 通勤帯』


『静音反応』


小さい違和感。


だが。


最近は、それを見逃さない。


その時。


喫茶店の窓が一瞬だけ黒く揺れた。


沈黙。


遠い。


薄い。


“目”。


以前ほど近くない。


久世は騒がない。


ノートへ静かに書く。


『黒反応 小』


『距離 遠』


数秒。


黒が揺れる。


そして消える。


店内では、誰かが仕事の話をしている。


コーヒーの音。


小さい笑い声。


日常は続いている。


壊れていない。


ただ。


少しずつ。


世界の輪郭だけが変わり始めていた。


(次話へ)


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