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第82話 夜明け前の神社

現実世界。


日本。


山の麓。


小さな神社。


まだ空は暗い。


老人が箒を動かしていた。


静かな音。


最近、朝が少し忙しい。


参拝者が増えた。


夢を見る者。


眠れない者。


理由を説明できない不安を抱える者。


皆、言葉少ない。


その時。


石段を、女性がゆっくり登ってくる。


会社員らしい。


疲れた顔。


老人が軽く頭を下げる。


女性も小さく会釈する。


鈴。


小さい音。


風が通る。


女性の肩が少し落ちる。


息が抜ける。


それだけだった。


救われた訳ではない。


終わった訳でもない。


だが。


少しだけ静かになる。


その時。


境内の隅。


空気が黒く揺れる。


沈黙。


“目”。


薄い。


遠い。


老人は騒がない。


女性も最近、掲示板で見ていた。


深呼吸。


名前確認。


小さい声。


「……私は、橘 美咲」


鈴が鳴る。


風。


木々。


“目”が揺れる。


少しだけ薄くなる。


近づかない。


数秒後。


消えた。


女性が息を吐く。


老人が箒を動かしながら言う。


「今日も朝は来たなぁ」


誰へ言うでもない声。


山の空気は静かだった。


(次話へ)


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