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第81話 沿岸の朝

北欧世界。


海沿いの小村。


朝。


風が冷たい。


黒い海は、今日も遠くにあった。


近づいている。


だが。


急ではない。


それが最近、一番厄介だった。


村外れ。


神兵達が固定柱を確認している。


昨夜の侵食反応。


微弱。


接近なし。


記録板へ静かに書き込まれていく。


「東側、変化なし」


「北側、黒霧微弱」


「村内部異常なし」


隊長が頷く。


それだけ。


戦闘もない。


叫びもない。


それでも。


朝の確認は欠かせなかった。


少し離れた場所。


老人達が網を直している。


漁は減った。


以前ほど海へ出ない。


だが。


止まってもいない。


完全停止は、村を壊す。


だから。


短時間だけ海へ出る。


戻る。


それを繰り返していた。


子供達が石段近くで遊んでいる。


最近、変わったことがある。


名前をよく口にするようになった。


「エイナ!」


「兄ちゃん!」


「母ちゃん呼んでる!」


大人が意識して教えた訳ではない。


自然だった。


忘れたくない。


その感覚だけが広がっていた。


その時。


空。


黒い鳥が一羽。


高い位置を旋回する。


沈黙。


村人達が空を見る。


怖がらない。


慌てない。


老人が小さく呟く。


「また来とるな」


神兵の一人が静かに確認を始める。


「北欧神話軍」


「沿岸監視隊」


周囲も続く。


村人も小さく口を動かす。


家族。


土地。


名前。


鳥は少し旋回し。


高度を上げ。


海側へ消えていった。


誰も追わない。


誰も勝利を語らない。


ただ。


朝が続く。


網を直す音。


風。


遠い波音。


村は今日も、静かに維持されていた。


(次話へ)


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