■ 第68話 「静かな本殿」
現実世界。
日本。
山奥の神社。
夕方。
老人が本殿前を掃除していた。
静か。
風の音だけが聞こえる。
最近、参拝客は少し増えていた。
だが。
騒がしくはない。
皆、静かだった。
夢を見る。
頭痛がする。
黒い目を見る。
そんな人間が、少しずつ来るようになっている。
その時。
石段を、美咲が登ってくる。
老人が軽く頭を下げる。
「また来たかい」
「はい」
美咲は苦笑する。
最近、ここへ来る頻度が増えていた。
理由は単純。
落ち着く。
夢が軽い。
頭が静か。
本殿前へ座る。
鈴の音。
風。
木々。
全部が静かだった。
その時。
境内の隅が黒く揺れる。
“目”。
以前より薄い。
美咲はもう慌てない。
お守りを握る。
小さな鈴の音。
“目”が揺れる。
だが。
消えない。
以前より“粘る”。
美咲が目を細める。
「最近、長くいる……?」
老人が空を見る。
黒い。
少しずつ広がっている。
「向こうも慣れてきとる」
小さい声。
美咲が振り返る。
「慣れる?」
老人は箒を動かしながら言う。
「押し返されることに、じゃろうな」
沈黙。
“目”は数秒境内を見ていた。
そして。
静かに消える。
老人は本殿を見る。
何もない。
それでも。
この場所だけ、空気が少し違った。
――観測記録
観測層:第3層
対象:日本列島
状態:局地安定維持段階
更新:
神社周辺侵食反応を継続確認
変化:
侵食側滞在時間 微増加
評価:
日本側局地防衛 継続中
補足:
侵食側が抵抗環境へ適応を試みている可能性あり
追加記録:
人類側精神安定傾向を確認
結論:
日本側静的抵抗段階 継続中
(次話へ)




