■ 第6話 「観測外からの侵入」
封鎖は、機能していた。
限定した戦域の中で戦闘を固定することで、
流出する信仰の量は確かに抑えられている。
完全ではない。
だが、無秩序な消耗よりは遥かにましだった。
「数は止まったな」
ゼウスが空を見上げる。
「増加は抑制されています」
アテナが即答する。
「ただし、減少も止まっていません」
「均衡ってわけか」
ポセイドンが肩を鳴らす。
「気に入らねえが、まあ悪くはねえ」
戦場は安定しつつあった。
だが、それはあくまで“内部”の話だった。
異変は、外側で起きている。
最初に気づいたのはハデスだった。
「……妙だな」
低い声が落ちる。
「何がだ」
ゼウスが振り返る。
「死が流れていない」
意味が分からない。
「戦ってるだろうが」
ポセイドンが苛立つ。
「いや、違う」
ハデスは首を振る。
「消えている」
その言葉で、空気が変わる。
「回収されているとか、そういう話じゃない」
視線が戦場の外へ向く。
「……どこにも行っていない」
アテナが眉をひそめる。
「流れが途切れている?」
「いや」
ハデスは短く否定する。
「最初から存在しなかったかのように消えている」
沈黙。
その時だった。
空間が、わずかに歪む。
だがそれは、これまでの裂け目とは違う。
境界の接続ではない。
“内部に発生した異常”。
「止まれ」
ゼウスが即座に雷を落とす。
直撃。
だが――
手応えがない。
「……何もいねえぞ」
ポセイドンが周囲を見る。
確かに、何かがあった。
だが今は、何もない。
「違う」
ハデスが一歩前に出る。
「いる」
その言葉と同時に、
足元の影が、わずかに揺れた。
「そこだ」
次の瞬間。
影の中から、何かが現れた。
形は定まらない。
輪郭もない。
だが、確実に“存在”している。
それは神ではない。
神話にも属していない。
「……なんだこれは」
ポセイドンの声が低くなる。
アテナが即座に分析を試みる。
「神格反応なし」
「信仰反応も検出できません」
「じゃあ何だ」
答えは出ない。
だが、その“何か”は動いた。
音もなく、距離も関係なく。
一瞬で。
近くにいた戦士が、消えた。
攻撃ではない。
存在ごと、削り取られた。
「……今の見たか」
ポセイドンが声を落とす。
「見た」
ゼウスが短く答える。
「回収でもない」
「奪取でもない」
アテナの声がわずかに揺れる。
「消失です」
ハデスが静かに言う。
「これが原因か」
再び、影が揺れる。
増えている。
一体ではない。
「全員、警戒しろ」
ゼウスが命じる。
「優先目標を変更する」
ポセイドンが笑う。
「やっと面白くなってきたじゃねえか」
アテナは首を振る。
「違います」
その目は、完全に警戒していた。
「これは、戦争の延長ではありません」
「なら何だ」
短い間。
そして。
「観測外です」
誰も、意味を理解できなかった。
だが、それだけは分かる。
これは、神話の戦いではない。
別の何かが、侵入してきている。




