■ 第7話 「記録はすでに始まっている」
戦場は拡大している。
領域固定によって局所的な均衡は保たれているが、
全体としての安定は崩れていた。
原因は明確ではない。
ただし、異常は増加している。
影の挙動は一定ではない。
発生位置は不定。
移動経路は追跡不能。
消失対象に共通項は見つからない。
「範囲を広げる」
ゼウスが判断する。
「封鎖領域を再設定する。中心を後退させろ」
「了解」
アテナは即座に応じる。
「外縁を捨てる判断になります」
「構わん」
ポセイドンが不満を漏らす。
「押してるところもあるんだぞ」
「押していない」
ゼウスは即答する。
「“削られていないだけ”だ」
沈黙。
ハデスが短く付け加える。
「今の相手は、減らない」
戦場の認識が変わる。
数を削る戦いではない。
減らないものと、消えるものの差が広がっている。
「対象を変える」
アテナが言う。
「影を優先する」
「当たるのか?」
ポセイドンが問う。
「当てる」
短い返答。
次の瞬間、空間に細い光が走る。
直線ではない。
追跡している。
影の動きに合わせて軌道が変わる。
「捕捉した」
アテナの声と同時に、光が収束する。
命中。
だが。
「……抜けた?」
貫通ではない。
接触したはずの部分が、存在していない。
「実体が安定していない」
アテナが即座に修正する。
「固定できない」
ハデスが低く言う。
「死の領域にも入らない」
ゼウスが一瞬だけ目を閉じる。
「つまり」
「処理できない」
その結論は単純だった。
そして、その瞬間。
空間の奥で、何かが“確定した”。
――観測が成立した。
観測層:第3層記録単位:戦域ログ対象神話:複合領域(ギリシャ/北欧)戦況:交戦継続信仰量変動:北欧 +7.2%ギリシャ −9.5%概念安定度:北欧 92%ギリシャ 74%干渉可否:不可異常項目:未定義存在を複数検知分類不能信仰反応なし神格反応なし備考:既存体系に該当しない
記録は継続される。
神々はそれを認識していない。
だが、すべては見られている。
存在の変化。
信仰の流れ。
消失の瞬間。
すべてが、蓄積される。
補足記録:信仰奪取現象は再現性あり北欧神話による能動的侵攻を確認異常発生源:戦争による歪みと推定ただし確定不能推奨対応:観測継続
戦場では、まだ誰も気づいていない。
だが、記録は止まらない。
これはすでに、ただの戦争ではない。
構造そのものの変化である。
そして。
それを最初から見ている存在がいる。
名は、まだ呼ばれない。
だが、機能は動いている。
記録主体:Archive状態:稼働中




