■ 第5話 「戦い方を変えろ」
衝突は続いている。
だが、優勢とも劣勢とも言い切れない状態だった。
倒している。
しかし減らない。
むしろ、わずかに増えている。
「これじゃ埒が明かねえ」
ポセイドンが苛立ちを隠さずに言う。
「何度潰しても同じだ。数が戻ってる」
「戻っているのではありません」
アテナが即座に否定する。
「補充されています」
「同じだろ」
「違います」
アテナは一歩前に出る。
「補充である以上、供給源が存在する」
短い沈黙。
「……つまり」
ゼウスが口を開く。
「後ろがある」
「はい」
アテナは頷く。
「そして、その供給源は“こちら側”にも存在する」
ポセイドンが顔をしかめる。
「どういう意味だ」
「信仰です」
その言葉で、空気が変わる。
「やつらは、こちらの信仰を奪っている」
「ふざけるな」
ポセイドンが即座に反発する。
「そんなことが――」
「起きています」
遮るように言い切る。
「先ほどの観測で確認済みです」
アテナの視線は冷静だった。
「戦闘による消費を、信仰の吸収で補填している」
ゼウスが考える。
時間は長くない。
「奪われた信仰は、どこへ流れる」
「裂け目の向こうです」
「ならば」
ゼウスは立ち上がる。
「断てばいい」
ポセイドンが笑う。
「やっとまともな話になったな」
「ただし」
アテナが言葉を続ける。
「方法は単純ではありません」
全員の視線が集まる。
「信仰は目に見えない。直接切断は不可能です」
「じゃあどうする」
「構造を変えます」
一瞬、意味が通らない。
「戦場を限定する」
アテナは指を空間へ向ける。
「この領域内での戦闘に制限することで、流出経路を絞る」
ゼウスが頷く。
「閉じ込めるか」
「はい」
「ただし完全封鎖は不可能です」
「なぜだ」
「相手は“別神話”です」
簡潔な説明だった。
「こちらのルールだけでは拘束しきれない」
ポセイドンが舌打ちする。
「じゃあ意味ねえじゃねえか」
「意味はあります」
アテナは一歩も引かない。
「効率を下げられる」
「削れる量が減る」
ゼウスが短くまとめる。
「時間を稼げる」
「はい」
数秒の沈黙。
その間にも、戦場では消耗が続いている。
「やる」
ゼウスが決断する。
「全域ではなく、重点区域を設定する」
「了解しました」
アテナがすぐに動く。
ポセイドンは笑いながら立ち上がる。
「囲って殴るってわけだ」
「単純ですが、有効です」
その時だった。
「――遅いな」
別の声が割り込む。
低く、重い。
空気が冷える。
ハデス
「削られてから動くとはな」
ゼウスが振り返る。
「来たか」
「状況は把握している」
ハデスは短く言う。
「なら話は早い」
ゼウスは前を見る。
「奪われる前に、削り返す」
その言葉は単純だった。
だが、意味は重い。
これは防衛ではない。
対抗だ。
戦い方が変わる。
そして同時に。
戦争の形も変わる。




