■ 第58話 「夜勤の記録」
現実世界。
深夜のコンビニ。
店員の佐伯 恒一は、レジへ立っていた。
客は少ない。
最近、夜が静かだった。
以前より。
妙に。
店内ラジオが流れている。
だが。
時折ノイズが混ざる。
佐伯は顔をしかめる。
「またか……」
最近増えた。
黒い画面。
ノイズ。
忘れ物。
妙な違和感。
掲示板で見た症状に近い。
その時。
自動ドアが開く。
客。
黒いパーカー。
顔が見えない。
沈黙。
佐伯は軽く頭を下げる。
「いらっしゃいませー」
客は何も答えない。
店内を歩く。
遅い。
不自然なほど。
佐伯はレジから見る。
嫌な感じがした。
その時。
店内モニターが一瞬黒く染まる。
空気が止まる。
客が止まる。
佐伯の背中に寒気が走る。
“来た”。
佐伯はポケットからメモ帳を出す。
最近、ずっと持ち歩いている。
書く。
『私は佐伯 恒一』
『夜勤店員』
『○月○日』
『コンビニ勤務中』
その瞬間。
黒いモニターが少し戻る。
客がゆっくり振り返る。
顔が曖昧だった。
目がない。
輪郭が揺れている。
佐伯の呼吸が止まる。
だが。
客は近づいてこない。
数秒。
沈黙。
そして。
静かに店を出ていった。
自動ドアが閉まる。
佐伯はその場へ座り込む。
息が荒い。
その時。
スマホ通知。
掲示板だった。
『夜勤中遭遇報告増えてる』
『メモ効いた』
『名前確認重要』
佐伯は震える手で返信する。
『今来た』
数秒後。
大量の返信。
『生きてるならOK』
『書き続けろ』
『忘れるな』
佐伯は小さく笑った。
怖い。
それでも。
一人じゃない。
――観測記録
観測層:第3層
対象:現実世界
状態:局所接触増加段階
更新:
夜間接触事例を確認
変化:
人類側対処行動 定着傾向
評価:
局所生存率 微上昇
補足:
記録行動が接触回避へ寄与している可能性あり
追加記録:
侵食個体の観察傾向を確認
結論:
人類側適応段階 継続中
(次話へ)




