■ 第57話 「閉じない霧」
ケルト世界。
森の奥。
最近、“霧が消えない区域”が増えていた。
危険地帯。
まだ小規模。
だが。
探索対象になっている。
ケルヌンノスが森を歩く。
同行する神兵は四名。
全員、神名確認済み。
腰には記録板。
最近では標準装備になっていた。
神兵の一人が霧を見る。
「前より濃くなってませんか?」
ケルヌンノスは頷く。
「少しずつな」
急激ではない。
だから厄介だった。
気づいた時には広がっている。
その時。
霧の奥で、小さな鐘の音がした。
全員が止まる。
沈黙。
ケルヌンノスが目を細める。
「……鐘?」
神兵が記録板へ書く。
『霧内部 音反応あり』
数秒後。
また鳴る。
遠い。
だが。
確かに存在している。
ケルヌンノスは慎重に進む。
霧の中。
そこには、小さな石碑があった。
古い。
苔だらけ。
そして。
神名が刻まれている。
神兵が息を呑む。
「誰が……」
ケルヌンノスは石碑へ触れる。
その瞬間。
周囲の霧が少し薄くなった。
沈黙。
神兵達が顔を見合わせる。
「……今、薄く」
ケルヌンノスが静かに言う。
「固定されている」
石碑。
神名。
記録。
それが霧を押し返している。
その時。
霧の奥で、“鹿”が現れた。
以前見た侵食個体。
黒い。
輪郭が曖昧。
だが。
石碑へ近づけない。
一定距離で止まっている。
神兵の一人が小さく呟く。
「嫌がってる……?」
“鹿”は数秒こちらを見る。
そして。
静かに霧の中へ戻っていった。
戦闘はない。
それでも。
確かに、“境界”が存在していた。
――観測記録
観測層:第3層
対象:ケルト世界
状態:局所霧調査段階
更新:
神名石碑による侵食低下を確認
変化:
霧領域安定率 微低下
評価:
記録媒体が局所固定へ作用
補足:
侵食個体は固定領域へ接近しづらい傾向あり
追加記録:
鐘音反応を確認
結論:
固定領域形成の可能性あり
(次話へ)




