■ 第43話 「記録共有」
現実世界。
午前二時。
久世 恒一は、パソコン画面を見続けていた。
眠気はない。
最近、寝る方が危険な気がしている。
夢を見るからだ。
黒い海。
巨大な目。
忘れていく感覚。
だが。
ノートへ記録すると、少しだけ薄れる。
それに気づいてから。
彼は書き続けていた。
『私は久世 恒一』
『記録者』
『神話を忘れるな』
その時。
画面に通知が入る。
新規メッセージ。
差出人不明。
久世は目を細める。
開く。
そこには、短く書かれていた。
『あなたも見えていますか?』
空気が少し止まる。
久世は即座に返信する。
『何を』
数秒。
返答。
『黒い目』
沈黙。
久世の指が止まる。
さらに続く。
『最近、神話を思い出せなくなる』
『記録すると少し戻る』
『あなたも同じですか?』
久世の顔色が変わる。
一人じゃない。
他にも気づいている人間がいる。
その時。
部屋の隅が、黒く揺れた。
“目”。
以前より近い。
だが。
久世はノートを掴む。
『確認』
『黒い目 出現』
『私は久世 恒一』
『記録継続』
空気が揺れる。
“目”が少し後退する。
久世は息を吐く。
「……やっぱり効いてる」
同時刻。
ギリシャ世界。
アテナが観測を続けていた。
その目が僅かに動く。
「……増えています」
ゼウスが振り返る。
「何がだ」
「人類側抵抗反応です」
資料が展開される。
小さい。
本当に小さい。
だが。
各地で、“記録行動”が増えている。
メモ。
日記。
掲示板。
神話記録。
自己確認。
ポセイドンが顔をしかめる。
「偶然か?」
「違います」
アテナは即答する。
「人類側で情報共有が始まっています」
ハデスが静かに呟く。
「気づき始めたか」
アテナは頷く。
「まだ極少数ですが」
「確実に存在しています」
その時。
観測画面が一瞬だけ乱れる。
ノイズ。
数秒。
そして。
黒い文字が浮かぶ。
「記録」
「確認」
「学習中」
空気が凍る。
ポセイドンが舌打ちする。
「本当に何でも見るな」
アテナの顔色が悪い。
「人類側対策も観測されています」
ゼウスが低く問う。
「長く持つか」
沈黙。
数秒。
そして。
「分かりません」
短い返答。
だが。
以前とは違う。
ほんの少しだけ。
希望があった。
神話側だけではない。
人間も。
抵抗し始めている。
その時。
空から、機械的な声が響いた。
「観測継続」
Archive。
だが。
今回は違う。
ほんの僅かに。
“視線”が増えている。
アテナは空を見る。
「……人類側も、観測対象へ入った」
返答はない。
それでも。
観測層は、確実に変化していた。
――観測記録
観測層:第3層
対象:現実世界
状態:人類側情報共有段階
更新:
記録行動の拡散を確認
変化:
局所的抵抗ネットワーク形成開始
評価:
忘却侵食 抵抗率 微増加
補足:
記録共有が存在固定を補助している可能性あり
追加記録:
外部存在側による人類対策観測を確認
結論:
人類側抵抗段階へ移行開始
(次話へ)




