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■ 第42話 「記録する者達」

現実世界。


深夜。


小さなマンションの一室。


机の上には大量の資料が散らばっていた。


新聞。


都市伝説本。


神話資料。


失踪事件記事。


そして。


黒い海の写真。


部屋の主は、三十代ほどの男だった。


名前は、久世 恒一。


フリー記者。


最近続いている“異常現象”を追っていた。


「……また減ってる」


パソコン画面を見る。


神話関連掲示板。


以前は大量にあった。


だが。


今は違う。


書き込みそのものが減っている。


検索しても出ない。


話題にならない。


消されている訳ではない。


“最初から興味が持たれていない”。


そんな感覚。


久世は目を細める。


「気持ち悪いな……」


その時。


部屋の隅に置かれたテレビが、一瞬だけ黒く染まる。


ノイズ。


久世が振り返る。


画面には何もない。


だが。


数秒後。


小さな“目”が映った。


沈黙。


久世は動かない。


普通の人間なら、見逃していた。


だが。


彼は止まった。


「……今の」


画面を巻き戻す。


もう映っていない。


それでも。


確かに見た。


“目”。


久世はノートを開く。


そこには、同じ記録が大量に書かれていた。


『黒い画面』


『目撃報告』


『忘却感』


『神話への興味低下』


そして。


大きく書かれている。


『記録し続けろ』


久世は小さく呟く。


「忘れるな」


その瞬間。


部屋の空気が、少しだけ重くなる。


沈黙。


久世はゆっくり振り返る。


部屋の隅。


暗闇。


そこに、“目”が浮かんでいた。


以前より近い。


以前より鮮明。


だが。


久世は逃げない。


ノートへ書き込む。


『確認』


『黒い目 出現』


『記録継続』


空気が揺れる。


“目”が少しだけ揺らいだ。


久世の表情が変わる。


「……?」


消えない。


だが。


“近づいてこない”。


久世は震える手で、さらに書く。


『私は久世 恒一』


『記者』


『記録者』


『忘れない』


その瞬間。


“目”が、一歩だけ後退した。


空気が止まる。


久世は息を呑む。


「効いてる……?」


同時刻。


ギリシャ世界。


アテナが観測を止めた。


沈黙。


ゼウスが振り返る。


「どうした」


アテナの目が僅かに開かれている。


「……人類側で、抵抗反応を確認」


空気が少し変わる。


ポセイドンが眉をひそめる。


「人間が?」


「はい」


アテナが資料を展開する。


微弱。


本当に小さい。


だが。


忘却侵食が、一瞬だけ低下している。


ハデスが低く言う。


「存在固定か」


アテナは頷く。


「恐らく」


「神話側と同じです」


“自分を記録する”。


“自分を確認する”。


それが、侵食へ抵抗している。


ポセイドンが小さく笑う。


「神も人間も、やること同じかよ」


その時。


空から、機械的な声が響く。


「観測継続」


Archive。


だが。


今回は違った。


ほんの僅かに。


“視線”が、久世へ向いていた。


アテナが空を見る。


「……見ていますね」


返答はない。


それでも。


観測層は、確かに人類側を見始めていた。


――観測記録


観測層:第3層

対象:現実世界


状態:人類側抵抗確認段階


更新:

記録行動による忘却低下を確認


変化:

存在固定行動が人類側でも有効


評価:

忘却侵食への抵抗可能性あり


補足:

「記録」が自己認識固定へ作用している可能性あり


追加記録:

Archiveによる人類側観測反応を確認


結論:

人類側にも抵抗手段存在の可能性あり


(次話へ)


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