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■ 第39話 「観測される対策」

ギリシャ世界。


神殿内部。


静かだった。


以前のような怒号はない。


戦争は続いている。


だが。


今は、“侵食へ耐える時間”になっていた。


神兵達が石板を囲んでいる。


神名確認。


自己認識固定。


毎日、何度も繰り返されていた。


「ゼウス様」


「アテナ様」


「ポセイドン様」


声が響く。


確認するように。


忘れないように。


ポセイドンが腕を組む。


「宗教みたいになってきたな」


アテナは資料を見たまま答える。


「元々、神話は信仰体系です」


「今さらです」


ポセイドンが小さく笑う。


否定できない。


その時。


一人の神兵が顔を上げた。


「……最近、夢を見るんです」


空気が少し止まる。


アテナが視線を向ける。


「どんな夢ですか」


神兵は言葉を探している。


「海です」


「黒い海」


ポセイドンの顔が変わる。


神兵は続ける。


「そこに、大きな目が浮かんでいて」


「ずっと、見てくるんです」


沈黙。


周囲の神兵達も顔を見合わせる。


一人が小さく呟く。


「……俺も見た」


空気が重くなる。


アテナが観測を開始する。


「精神干渉反応……?」


ハデスが低く言う。


「夢へ入ってきたか」


ポセイドンが舌打ちする。


「本当にどこでも来るな」


神兵が震えながら続ける。


「でも」


「最近、少し変なんです」


「何が」


アテナが問う。


神兵はゆっくり答える。


「夢の中で」


「名前を呼ぶと、“目”が少し離れるんです」


沈黙。


アテナの目が僅かに動く。


「……名前?」


「はい」


神兵は石板を見る。


「ゼウス様」


「ポセイドン様」


「アテナ様」


「そうやって確認すると、少しだけ遠くなる」


ポセイドンが眉をひそめる。


「夢の中でも効いてるのか」


アテナは資料を更新する。


「存在固定が、精神領域にも作用している可能性があります」


ハデスが静かに呟く。


「“自分を忘れない”ことが重要か」


その時だった。


神殿の壁が黒く染まる。


以前より長い。


数秒。


全員が警戒する。


だが。


侵食は広がらない。


壁に、“文字”だけが浮かぶ。


沈黙。


アテナが顔色を変える。


そこに刻まれていたのは。


「理解」


「対策」


「観測中」


空気が凍る。


ポセイドンが低く笑う。


「……見られてるな」


ハデスが壁を見る。


「対策を学習している」


アテナは黙る。


分かっていた。


長くは持たない。


侵食存在は、必ず適応する。


それでも。


時間は稼げる。


その時。


空から、機械的な声が響いた。


「観測継続」


Archive。


相変わらず動かない。


だが。


以前より。


少しだけ近く感じた。


アテナは空を見る。


「……何を待っているんですか」


返答はない。


黒い文字だけが、静かに壁へ残っていた。


――観測記録


観測層:第3層

対象:ギリシャ世界


状態:存在固定継続段階


更新:

夢領域への侵食を確認


変化:

神名確認による精神安定効果を確認


評価:

対策効果 継続中


補足:

外部存在側が対策を観測している


追加記録:

侵食存在による文字干渉を確認


結論:

対策解析段階へ移行


(次話へ)


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