# ■ 第36話 ## 「信仰減衰」
現実世界。
地球。
人類は、まだ全てを知らない。
神話世界で起きている戦争も。
侵食も。
観測層も。
ほとんど認識されていない。
だが。
“影響”だけは出始めていた。
日本。
深夜。
一人の男がテレビを見ている。
ニュース。
海洋異常。
黒い海域。
各国で増加する原因不明失踪。
男は眉をしかめる。
「最近、多いな……」
その時。
画面が一瞬だけ乱れた。
ノイズ。
数秒。
すぐ戻る。
男は首を傾げる。
だが。
その瞬間だった。
部屋の隅。
暗闇の中に、“目”が浮かんでいた。
沈黙。
男は気づかない。
“目”は、静かに見ている。
数秒後。
消える。
まるで最初から存在していなかったかのように。
同時刻。
ギリシャ世界。
アテナが観測を続けていた。
その顔色が変わる。
「……?」
ゼウスが振り返る。
「どうした」
「信仰量が減少しています」
空気が止まる。
ポセイドンが顔をしかめる。
「戦争の影響じゃねぇのか?」
「違います」
アテナは即答する。
「減少速度が不自然です」
資料が展開される。
ギリシャ。
北欧。
エジプト。
全部、微減。
小さい。
だが。
確実に減っている。
ハデスが低く呟く。
「……忘却か」
アテナが頷く。
「恐らく」
「人類側で、神話への認識が薄れ始めています」
沈黙。
神話の力。
それは信仰。
つまり。
“忘れられる”ことは弱体化を意味する。
ポセイドンが舌打ちする。
「最悪だな」
ゼウスは黙る。
もし、“向こう側”が人類側へ干渉しているなら。
戦う前に、神話側は衰弱する。
その時だった。
空が一瞬だけ黒く染まる。
全員が見上げる。
だが。
すぐ戻る。
沈黙。
アテナが観測する。
「……局所観測反応」
「また見られています」
ポセイドンが苛立つ。
「本当に気味悪ぃな」
その時。
神殿の外で、小さな騒ぎが起きる。
神兵達だった。
一人が震えている。
「どうした」
神兵は顔を上げる。
目が虚ろだった。
「……ゼウス様って、誰ですか?」
空気が凍る。
沈黙。
ゼウスの神格が、一瞬揺れた。
ポセイドンが絶句する。
「おい……」
アテナの顔色が変わる。
「存在認識侵食……!」
ハデスが低く言う。
「ついに来たか」
神話側だけではない。
人類側だけでもない。
“神そのもの”への認識が、少しずつ削られている。
ゼウスは神兵を見る。
怒らない。
ただ。
静かだった。
神兵は本気で分かっていない。
神話の頂点を。
思い出せない。
その時。
空から、機械的な声が響く。
「観測継続」
Archive。
相変わらず。
動かない。
助けない。
ただ見ている。
だが。
アテナだけは、空を見続けていた。
「……まだですか」
小さく。
誰にも聞こえないほど小さく呟く。
返答はない。
黒い空だけが、少しずつ広がっていた。
――観測記録
観測層:第3層
対象:現実世界/ギリシャ世界
状態:信仰減衰段階
更新:
人類側認識低下を確認
変化:
神格存在認識侵食 発生
評価:
神話側基盤 弱体化開始
補足:
侵食は“忘却”を利用している可能性あり
追加記録:
ゼウス認識欠損事例を確認
結論:
信仰構造 崩壊前兆段階へ移行
(次話へ)




