# ■ 第34話 ## 「ギリシャ側会議」
ギリシャ世界。
神殿最上層。
空気は重かった。
誰も大声を出さない。
以前までのような怒号もない。
戦争は続いている。
だが。
今は、“戦う以前”の問題になっていた。
アテナが資料を並べる。
観測記録。
侵食報告。
神格減衰。
記憶崩壊。
どれも増加傾向。
「現在確認されている侵食は三種類です」
静かな声。
ゼウスが腕を組む。
「続けろ」
「第一段階は局所侵食」
「空間や海洋など、一部領域の変質」
ポセイドンが顔をしかめる。
黒海。
今も広がっている。
完全には止められていない。
アテナが続ける。
「第二段階は存在侵食」
「神兵や下位神への記憶汚染」
ハデスが低く呟く。
「自己認識崩壊か」
「はい」
短い返答。
「そして第三段階」
空気が重くなる。
アテナの目が僅かに揺れた。
「神格侵食です」
沈黙。
ゼウスが右手を見る。
以前ほど雷が安定しない。
出力が落ちている。
理由は分かっている。
“向こう側”に読まれている。
ポセイドンが舌打ちする。
「本当に最悪だな」
その時。
神殿の扉が開いた。
伝令神だった。
息が荒い。
「報告!」
「エジプト世界から接触要請です!」
空気が少し変わる。
アテナが目を細める。
「内容は」
「黒化現象を確認」
「こちらと同様の侵食が発生しています!」
沈黙。
ポセイドンが低く笑う。
「とうとう他所も来たか」
ハデスは静かだった。
だが。
その目は鋭い。
「拡散速度が早いな」
アテナが観測資料を更新する。
「北欧、ギリシャに続き、エジプト側でも侵食確認」
「単独戦争段階は終了しています」
ゼウスが低く言う。
「つまり」
「神話全体の問題です」
アテナが即答する。
空気が重くなる。
以前までなら。
他神話は敵だった。
信仰を奪い合う対象。
だが。
今は違う。
“向こう側”は、神話そのものを侵食している。
ポセイドンが椅子へ座る。
疲れたように。
「連合でも組むか?」
冗談のつもりだった。
だが。
誰も笑わない。
アテナが静かに言う。
「必要になる可能性は高いです」
沈黙。
ゼウスが目を閉じる。
神話連合。
本来、有り得ない。
神話とは。
互いに競い合う存在。
信仰を奪い合う構造。
だが。
“向こう側”は、その前提を壊している。
その時だった。
神殿の窓の外。
空が一瞬だけ黒く染まる。
全員が振り返る。
だが。
すぐ戻る。
沈黙。
ポセイドンが顔をしかめる。
「……今の何だ」
アテナが観測する。
数秒後。
「局所接続反応」
「恐らく観測です」
ハデスが低く呟く。
「見られているな」
誰も否定できない。
その時。
空から、機械的な声が響いた。
「観測継続」
Archive。
観測層。
動かない。
助けない。
ただ見ている。
ポセイドンが苛立つ。
「だから何なんだよ、お前は……」
返答はない。
だが。
アテナだけは、空を見ていた。
「……まだ動かない」
小さく。
本当に小さく呟く。
「まだ、“条件”ではない」
沈黙。
その意味を。
誰も知らないまま。
会議は続いていく。
――観測記録
観測層:第3層
対象:ギリシャ世界
状態:侵食分析段階
更新:
エジプト世界で侵食確認
変化:
神話間連合議論 発生
評価:
単独神話防衛 限界接近
補足:
局所観測反応を継続確認
追加記録:
Archive干渉なし
結論:
神話戦争構造 変化開始
(次話へ)




