表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
33/199

# ■ 第33話 ## 「北欧側の違和感」

北欧世界。


空は曇っていた。


戦争開始直後から続く、重い灰色。


トールが歩いている。


武器を肩に担ぎながら。


周囲には、破壊された都市。


崩れた神殿。


侵攻の跡。


だが。


最近は妙だった。


静かすぎる。


「……」


トールは立ち止まる。


風が吹く。


冷たい。


以前とは違う。


“誰かに見られている感覚”が消えない。


その時。


遠くで、小さな悲鳴が聞こえた。


トールが振り返る。


神兵の一人が、地面に座り込んでいる。


震えていた。


「どうした」


近づく。


神兵は顔を上げる。


目が虚ろだった。


「……思い出せません」


沈黙。


「何をだ」


神兵は自分の胸を掴む。


「誰に仕えていたのか」


空気が止まる。


トールの顔が変わる。


神格が揺れている。


存在定義が薄い。


以前なら有り得ない。


神兵は神話体系の一部。


信仰と神格によって固定されている。


だが今。


それが崩れている。


トールが低く呟く。


「侵食か……」


その時。


背後から声がした。


「違う」


ロキだった。


だが。


本物ではない。


北欧世界側に残っていた、“記録体”。


神格情報を基にした存在維持用の分身。


以前より輪郭が薄い。


トールが振り返る。


「戻ったのか」


「半分だけな」


ロキは笑う。


乾いた笑い。


「向こう、最悪だぞ」


トールが眉をひそめる。


「何が起きている」


ロキは空を見る。


灰色の空。


少しずつ黒が混ざっている。


「俺ら、削られてる」


神兵が震えながら呟く。


「……名前が」


ロキが続ける。


「神格とか信仰とか、そういう派手な話じゃない」


「もっと根本」


沈黙。


そして。


「“自分が自分だと思う部分”が消えてる」


空気が冷える。


トールは黙る。


否定できない。


最近。


自分でも違和感がある。


戦い方。


怒り方。


記憶。


全部が少しずつズレている。


その時。


遠くの海から、“音”が聞こえた。


ぐちゃり。


沈黙。


トールとロキが同時に振り返る。


海。


黒い。


以前より広がっている。


その中で。


“何か”が動いた。


小さい。


人型。


だが。


輪郭が安定していない。


神兵が後退する。


「……来る」


トールが武器を握る。


だが。


ロキが止めた。


「待て」


「様子がおかしい」


“それ”は海から出てこない。


ただ。


こちらを見ている。


沈黙。


数秒後。


“それ”が口を開いた。


「……トール」


空気が止まる。


神兵が凍る。


トールの顔が変わる。


“それ”は笑った。


ロキと同じように。


だが。


どこか壊れている。


「理解」


「北欧」


「適応中」


トールが即座に武器を投げる。


雷撃。


直撃。


海が吹き飛ぶ。


“それ”は消える。


沈黙。


だが。


数秒後。


別の場所の海から、また現れる。


アテナ達の戦場だけではない。


侵食は。


もう、世界全体へ広がっていた。


ロキが小さく笑う。


「ほらな」


「静かな時の方がヤバい」


遠く。


黒い海が、少しずつ広がっていく。


誰にも止められないまま。


――観測記録


観測層:第3層

対象:北欧世界


状態:局所侵食拡大


更新:

神兵への記憶侵食を確認


変化:

自己認識崩壊 初期段階


評価:

北欧神話安定率 低下中


補足:

侵食は神格より先に個体認識へ作用


追加記録:

北欧適応型個体を確認


結論:

侵食は各神話世界へ拡散中


(次話へ)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ