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第328話 新しい朝
翌朝。
資料室には柔らかな朝日が差し込んでいた。
久世恒一はいつものように鍵を開ける。
棚。
机。
資料。
昨日と何も変わらない。
窓を開けると、涼しい風が紙を静かに揺らした。
少し遅れて柿崎もやって来る。
「おはようございます。」
「おはようございます。」
いつも通りの挨拶。
それだけだった。
受付箱には、新しい記録が二通届いている。
『近所の子どもが、朝顔がきれいだと言っていた。』
『昨日より風が気持ちよかった。』
久世は思わず微笑んだ。
異変ではない。
恐怖でもない。
ただ、生きていた記録。
今日という日が始まった証。
資料室は世界の終わりを待つ場所ではなかった。
誰かの今日を静かに積み重ねる場所だった。
遠くでは学校の始業ベルが鳴る。
市場には店が並び。
森には鳥がさえずり。
神々は今日も、それぞれの空の下で世界を見守っている。
そしてArchiveは、もう何も語らなかった。
世界は誰か一人によって支えられるものではない。
神も、人も、名もなき誰かも。
それぞれが自分の場所で今日を生きる。
その積み重ねこそが、この世界だった。
夏の風が資料室を通り抜ける。
白い紙が一枚だけ静かにめくれた。
新しい記録を書くための、最初の一頁だった。
――終幕――




