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第324話 誰も知らない資料室の朝
翌朝。
資料室の扉を開けると、紙と木の匂いが静かに迎えてくれた。
久世は窓を開ける。
柔らかな朝風が棚の間を抜け、小さく積まれた報告書を揺らした。
今日も町は普通に始まっている。
駅へ向かう学生。
商店街で店を開ける夫婦。
公園を散歩する老人。
誰も世界の均衡など知らない。
それでよかった。
受付箱には、新しい封筒が三通入っていた。
「昨日、夕焼けが少し長かった。」
「知らない鳥を見た。」
「子どもが同じ夢を見たと言っていた。」
久世は一枚ずつ目を通し、丁寧に整理していく。
柿崎が温かい珈琲を机へ置いた。
「今日も増えてるわね。」
「世界が生きている証拠ですよ。」
久世は静かに笑う。
異常だけを集める場所ではない。
誰かが今日を生きた。
その積み重ねを残す場所。
それが資料室だった。
窓の外では、小学生たちが笑いながら横断歩道を渡っていく。
その何気ない朝の景色を見つめながら、久世は新しい台帳を開いた。
今日という一日も、誰かの記録になる。
その積み重ねが、明日の世界を静かに支えていくのだった。
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