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第323話 Archiveが初めて迷った夜
世界のどこにも属さない静かな空間。
Archiveは今日も観測を続けていた。
北欧の市場。
ギリシャの回廊。
ケルトの森。
日本神話圏。
人々の町。
無数の景色が静かに積み重なっていく。
これまでArchiveは、ただ記録するだけだった。
善悪を決めない。
救済もしない。
裁きもしない。
存在した事実だけを残し続ける。
それが自らの役割だった。
だが今日、一つだけ今まで存在しなかった記録が生まれる。
日本神話圏。
天照大神。
観測対象。
その項目の横へ、新しい文字が現れた。
『観測者を認識』
Archiveは処理を止める。
初めてだった。
観測する側が、観測されていることへ気付いた。
長い静寂。
世界中で風が吹く。
北欧では雪が舞い。
ケルトでは霧が流れ。
資料室では一枚の紙がめくられた。
何も変わらない。
それでも何かが変わった。
Archiveは初めて、自らが世界の外側に立っていることを意識した。
記録には残せない感覚。
名前を持たない揺らぎ。
それでも観測だけは止めなかった。
止めれば、この世界を見届ける者がいなくなる。
静かな夜は続いていた。
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