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第320話 森に立つ三つの石碑
ケルト神話圏。
深い森の奥では、朝露をまとった草花が静かに揺れていた。
霧は低く流れ、鳥たちの声だけが木々の間へ響いている。
境界に置かれた三つの石碑は、昨日と変わらぬ場所で森を見守っていた。
ケルヌンノスは一本目の石碑へ静かに手を添える。
冷たい。
硬い。
変化はない。
それを確かめるだけで十分だった。
霧の向こうから、一羽の黒い鳥が姿を現す。
石碑の手前へ降り立ち、首を傾げる。
昨日も来た鳥だった。
鳥は石碑を越えようとしない。
ただ境界を眺め、森の匂いを確かめるように羽を震わせる。
ケルヌンノスも動かない。
敵意もない。
歓迎もしない。
互いに距離を保ち続ける。
やがて鳥は静かに空へ舞い上がり、霧の奥へ消えていった。
森は再び鳥の声だけを残す。
近くでは村人たちが薬草を摘み、小川では子どもたちが魚を追いかけていた。
境界は確かに存在する。
だが、その内側には変わらぬ暮らしが流れている。
ケルヌンノスは森全体を見渡した。
今日も、この静けさを守る。
それだけで十分だった。
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