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第319話 白い回廊を渡る風
ギリシャ神話圏。
白大理石の回廊を、涼しい風がゆっくりと吹き抜けていく。
柱の間から見える空は青く、遠くでは白い雲が静かに流れていた。
アテナは回廊の中央に立ち、境界地帯から届いた報告書へ目を通している。
「北欧側に変化はありません。」
側近のクレアスが淡々と告げる。
「こちらも同じです。」
アテナは報告書を閉じた。
境界では兵たちが見張りを続けている。
しかし槍は交わらない。
怒号も響かない。
互いの姿が見える距離を保ち、それ以上近づこうとはしなかった。
「戦わないことも、勇気なのですね。」
若い神官が小さく呟く。
アテナは穏やかに微笑んだ。
「勝つことだけが戦いではありません。」
「守るために止まる日もあるのです。」
回廊の外では、神殿へ供物を運ぶ人々が歩いていた。
子どもが石段を駆け上がり、巫女が花を供える。
神々の世界にも、静かな生活がある。
その積み重ねが領域を支え、信仰を育てていた。
風が再び柱の間を通り抜ける。
白い床へ落ちた木の葉が一枚だけ転がった。
アテナはそれを拾い上げることなく見送った。
自然もまた、自らの流れで世界を支えている。
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