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第318話 止まらない市場
北欧神話圏。
山麓に広がる市場では、朝から多くの人々が行き交っていた。
干し肉を並べる老人。
毛皮を選ぶ旅人。
子ども達は石畳を走り回り、商人は値札を書き換えている。
空には灰色の雲。
そのさらに高く。
鳴る塔の上からトールは市場を眺めていた。
「今日も変わらないな。」
隣に立つオーディンは静かに頷く。
「変わらぬことほど難しい。」
かつてなら、この軍勢は南へ進軍していただろう。
ギリシャ神話圏との境界を押し広げ、信仰を奪い合っていた。
しかし今は違う。
市場が開くこと。
子どもが笑うこと。
鍛冶屋が槌を振るうこと。
それらを守ることこそが神々の役目になっていた。
風が塔を吹き抜ける。
遠く東の空がわずかに明るく揺れた。
日本神話圏。
天照大神の光だった。
トールは黙ってその光を見つめる。
戦うためではない。
互いが存在し続けるために。
神々は今日も、自らの領域で静かに立ち続けていた。
市場には、いつも通りの一日が流れている。
その当たり前こそが、何より重い奇跡だった。
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