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Archive:神話戦争 ―信仰を奪う神々―  作者: 竜太郎


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第317話 雨の資料室と一冊の記録帳

七月半ば。


午後から降り始めた雨は、資料室の窓を静かに叩き続けていた。


湿った風が僅かに流れ込み、古い紙の匂いが部屋いっぱいに広がる。


久世恒一は棚の最下段から、一冊の革張りの記録帳を取り出した。


表紙には何も書かれていない。


開けば、年月だけが並んでいる。


誰が書いたのかも分からない古い記録。


夢。


違和感。


町角で立ち止まった理由。


子どもが描いた黒い丸。


どれも世界を救うような出来事ではない。


だが、世界はこうした小さな記録の積み重ねで形を保ってきた。


窓際では柿崎が万年筆を静かに置く。


「今日も届いているわ。」


受付箱には、住民から寄せられた小さな報告が数枚入っていた。


『昨日まであった路地が少し狭く感じた。』


『神社の鈴の音が長く残った。』


『夢で知らない山を歩いた。』


久世は一枚ずつ目を通し、分類していく。


異常ではない。


だからこそ残す。


外では学生たちが笑いながら雨の中を駆け抜けていく。


誰も世界の危うさを知らない。


それでいい。


知る者が記録し、知らない者が日常を生きる。


その静かな役割分担が、今日も世界を支えていた。


(次話へ)


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