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■ 第23話 「侵食される個性」

裂け目は拡大を続けていた。


以前のような“亀裂”ではない。


境界そのものが薄くなっている。


アテナが観測を続ける。


「模倣精度、上昇中」


「ロキ型存在、神格反応安定化」


ポセイドンが顔をしかめる。


「笑えねぇぞ、それ」


ゼウスは裂け目を見ている。


本物のロキ。


そして。


こちら側へ出てきた“ロキ”。


二つが存在している。


それだけで、神話側法則が軋んでいた。


ハデスが低く言う。


「存在重複か」


アテナが頷く。


「通常の神話体系では成立しません」


「ですが」


視線が“ロキ”へ向く。


「向こう側は無理やり成立させています」


その瞬間。


“ロキ”が笑った。


「問題ない」


本物と同じ声。


同じ話し方。


同じ間。


だが。


決定的に違う。


“軽さ”がない。


作られた会話。


理解して真似しているだけ。


ポセイドンが舌打ちする。


「気持ち悪ぃな……」


“ロキ”が視線を向ける。


「理解」


「嫌悪反応」


「感情模倣 開始」


空気が止まる。


次の瞬間。


“ロキ”の表情が変わる。


本物そっくりに。


笑い方。


視線。


空気感。


全部。


ポセイドンの顔色が変わる。


「おい……」


アテナが即座に解析を行う。


「危険です!」


「模倣が外見段階を超えています!」


ゼウスが低く問う。


「何が起きている」


「個性を学習しています」


沈黙。


ポセイドンが理解する。


「……性格まで真似してんのか」


「はい」


アテナは頷く。


「神話側個体を、“存在単位”で解析しています」


ハデスが裂け目を見る。


「だからロキか」


「最初に接触した個体」


「最も情報量が多い」


本物のロキが笑う。


だが。


その笑みは少し歪んでいた。


「やめてくれよ」


「俺が俺じゃなくなるみたいだろ」


“ロキ”が反応する。


「ロキ」


「定義確認」


「再現可能」


空気が重くなる。


ゼウスが雷を構える。


「破壊する」


瞬間。


雷が落ちる。


直撃。


“ロキ”の身体が崩れる。


だが。


再び繋がる。


以前より速く。


以前より自然に。


アテナが顔色を変える。


「再生速度 上昇!」


「学習しています!」


ポセイドンが黒い海を叩き込む。


津波。


圧壊。


飲み込む。


だが。


“ロキ”が海を見る。


「理解」


次の瞬間。


黒い海が止まる。


ポセイドンの顔が凍る。


「……は?」


制御を奪われた。


完全ではない。


だが。


触れられている。


“向こう側”が、神話側概念へ適応している。


ハデスが領域を強制展開。


死を流し込む。


“ロキ”の動きが止まる。


その瞬間。


本物のロキが裂け目から叫ぶ。


「今だ!!」


ゼウスが雷を落とす。


全力。


空間ごと消し飛ばす。


轟音。


裂け目が揺れる。


“ロキ”の輪郭が崩壊する。


消える。


沈黙。


ポセイドンが息を吐く。


「……やったか?」


次の瞬間。


裂け目の奥で、“大量のロキ”が笑った。


空気が凍る。


アテナの顔色が完全に変わる。


「複製……!」


裂け目の奥。


無数のロキ型存在。


同じ顔。


同じ笑み。


同じ声。


そして。


全員が同時に言った。


「理解」


ゼウスが絶句する。


ポセイドンが後退する。


ハデスが領域を強化。


本物のロキだけが、笑えなくなっていた。


――観測記録


観測層:第3層

対象:ロキ型存在群


状態:大量複製段階


更新:

個性模倣を確認


変化:

神話側概念への適応進行


評価:

存在複製能力 危険域


補足:

対象は“神格”ではなく“個性”を再現している


追加記録:

黒海概念への干渉を確認


結論:

神話側優位性 消失寸前


(次話へ)


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