■ 第22話 「再現される神」
裂け目は脈動していた。
以前までの“不安定な接触”ではない。
一定周期で揺れている。
呼吸のように。
アテナが観測を続ける。
「接続安定率、上昇」
「ロキの存在情報が利用されています」
ゼウスが低く問う。
「再現率は」
数秒。
そして。
「危険域です」
ポセイドンが舌打ちする。
「最悪じゃねぇか」
ハデスは裂け目を見ていた。
静かに。
まるで。
“何か”を待っているように。
その時だった。
空間が揺れる。
裂け目が開く。
以前より自然に。
以前より近く。
そして。
“誰か”が出てきた。
沈黙。
ポセイドンが顔をしかめる。
「……は?」
姿は、ロキだった。
同じ顔。
同じ声。
同じ神格反応。
だが。
違う。
決定的に。
“中身”だけが空っぽだった。
「やぁ」
ロキの声。
だが。
感情がない。
アテナが即座に術式を展開する。
「接近禁止!」
空間固定。
認識遮断。
存在封鎖。
同時に。
ゼウスが雷を放つ。
直撃。
轟音。
ロキだったものが吹き飛ぶ。
だが。
立ち上がる。
笑いながら。
「なるほど」
「これが攻撃」
空気が止まる。
ポセイドンが顔を引きつらせる。
「おい……」
“理解している”。
戦闘を。
神話側の反応を。
ハデスが低く言う。
「学習済みか」
アテナが観測を続ける。
「違います」
「これは――」
言葉が止まる。
「再現です」
沈黙。
つまり。
“向こう側”は、ロキを使ってこちら側を模倣している。
完全なコピーではない。
だが。
近い。
近づき続けている。
ゼウスが雷を構える。
「止めるぞ」
次の瞬間。
“ロキ”が消えた。
移動ではない。
距離が消えている。
「後ろだ!」
ポセイドンが叫ぶ。
遅い。
“ロキ”がゼウスの背後に立っていた。
笑っている。
本物と同じように。
「理解」
空気が歪む。
ゼウスが即座に雷を爆発させる。
強制離脱。
“ロキ”が吹き飛ぶ。
だが。
また立ち上がる。
「いいね」
「これが神話側」
ポセイドンが海を叩き込む。
黒く染まり始めた海。
以前より制御が不安定。
“ロキ”が避けない。
直撃。
空間ごと飲み込まれる。
沈黙。
数秒後。
海が裂ける。
“ロキ”が出てくる。
笑ったまま。
「理解」
「適応」
アテナの顔色が変わる。
「まずい!」
「侵食速度が加速しています!」
ハデスが領域を展開する。
死。
終焉。
固定。
“ロキ”の動きが止まる。
一瞬だけ。
その瞬間。
ゼウスが雷を落とした。
直撃。
今度は違う。
確かに、“ロキ”の輪郭が崩れる。
ポセイドンが笑う。
「効いてるぞ!」
だが。
崩れた輪郭が、再び繋がる。
「再構築……!?」
アテナが絶句する。
“ロキ”が笑う。
「理解済み」
空気が凍る。
その時。
裂け目の奥。
本物のロキが見えた。
沈黙。
だが。
様子がおかしい。
輪郭が揺れている。
存在が不安定。
“向こう側”に引き込まれている。
ポセイドンが怒鳴る。
「おい!」
ロキが笑う。
だが。
以前のような余裕はない。
「……なるほどな」
その目が、“ロキ”を見る。
自分を模倣した存在を。
「そうやって増えるのか」
空気が止まる。
“ロキ”が、本物を見る。
初めて。
“感情らしきもの”が浮かぶ。
笑み。
そして。
「接続完了」
次の瞬間。
裂け目がさらに拡大した。
――観測記録
観測層:第3層
対象:外部存在(模倣体)
状態:再現活動中
更新:
神話側個体模倣を確認
変化:
ロキ型存在 出現
評価:
神話体系汚染 進行
補足:
対象は“理解した個体”を再構築可能
追加記録:
模倣精度 上昇中
結論:
神話側個体情報 漏洩危険域到達
(次話へ)




