■ 第24話 「神格情報汚染」
裂け目の奥。
無数のロキが笑っていた。
同じ顔。
同じ声。
同じ空気。
だが。
違う。
決定的に。
“魂が存在しない”。
ポセイドンが顔をしかめる。
「冗談だろ……」
アテナが観測を続ける。
「複製数、増加中」
「停止傾向なし」
ゼウスが低く問う。
「破壊可能か」
数秒。
沈黙。
そして。
「不可能ではありません」
「ですが、意味がありません」
空気が重くなる。
ハデスが静かに言う。
「本体ではないからか」
「はい」
アテナが頷く。
「“向こう側”が再現を継続する限り、増殖します」
本物のロキが裂け目の奥を見る。
大量の“自分”。
その全てが、自分を見ている。
初めて。
ロキの笑みが消えていた。
「気持ち悪ぃな」
“ロキ”達が反応する。
同時に。
全員が笑った。
全く同じタイミングで。
ポセイドンが後退する。
「おい……」
空気が狂っている。
個体差がない。
完全同期。
まるで。
一つの意思が、複数の器を動かしている。
アテナが低く呟く。
「群体型……」
ゼウスが雷を構える。
「焼き払う」
次の瞬間。
雷雨。
広域殲滅。
裂け目ごと貫く。
大量の“ロキ”が崩壊する。
だが。
消えない。
次々に再構築される。
そして。
“ロキ”達が同時に口を開いた。
「理解」
「学習」
「再現」
「接続」
空間が揺れる。
ポセイドンの海がさらに黒く染まる。
ハデスの領域が軋む。
アテナの術式にノイズが走る。
ゼウスの雷が歪む。
“神話側そのもの”が侵食され始めていた。
アテナが叫ぶ。
「まずい!」
「神格情報が汚染されています!」
ゼウスが目を細める。
「何だと」
「対象が神話側の概念構造を模倣しています!」
「存在定義が混線しています!」
ハデスが理解する。
「……境界が消えているのか」
「はい!」
アテナの声が焦る。
「“本物”と“再現”の差異が薄くなっています!」
その瞬間。
一体の“ロキ”が、ゼウスの雷を使った。
沈黙。
全員が止まる。
雷。
神格。
本来、ゼウスのみが扱う概念。
それを。
“向こう側”が再現した。
ポセイドンが絶句する。
「は……?」
アテナの顔色が変わる。
「早すぎる……!」
「神格構造まで解析されています!」
本物のロキが笑う。
乾いた笑いだった。
「俺、やらかした?」
誰も否定できない。
その時だった。
裂け目の奥。
“何か巨大なもの”が動いた。
空間そのものが軋む。
大量のロキ型存在が、一斉に沈黙した。
アテナが凍る。
「……来る」
ゼウスが低く問う。
「何がだ」
数秒。
そして。
「本体です」
空気が止まる。
ポセイドンが顔を引きつらせる。
「今までの全部、“前座”かよ……」
裂け目が広がる。
以前より巨大に。
以前より深く。
そして。
“向こう側”そのものが、近づいてくる。
ロキ型存在達が、一斉に笑った。
「接続完了」
次の瞬間。
神話側の空が、黒く染まり始めた。
――観測記録
観測層:第3層
対象:外部存在群
状態:神格情報侵食
更新:
雷神格模倣を確認
変化:
神話側概念 境界崩壊開始
評価:
本物/再現 判別率低下
補足:
対象は神格そのものを再現可能
追加記録:
超大型反応 接近中
結論:
外部存在本体 接触直前
(次話へ)




