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第165話 残らない住所

現実世界。


夕方。


市役所。


住民課。


静かな残業時間。


職員達が書類整理をしていた。


最近。


奇妙な報告が増えている。


地名。


古地図。


古い記録。


そして今日。


新しい報告。


住所。


若い職員が書類を見つめる。


住所は書いてある。


読める。


だが。


頭に残らない。


数秒後。


もう一度見る。


また忘れる。


隣の職員も同じ。


システム異常ではない。


紙も正常。


文字も正常。


だが。


意味だけが滑り落ちる。


沈黙。


窓の外。


黒い鳥。


十一羽。


電線。


街灯。


屋根。


静かに並んでいる。


誰も鳴かない。


誰も飛ばない。


その時。


市役所の時計が一瞬だけ止まる。


一秒。


二秒。


三秒。


動き出す。


誰も気付かない。


だが。


何かは進んでいた。


観測層:第4層


記録単位:居住情報侵食


対象領域:現実世界


進行度:上昇


異常分類:


意味侵食


継承侵食


備考:


地名から住所へ拡大。


定義領域の縮小を確認。


記録主体:Archive


状態:稼働中


記録は継続される。


誰も気付かない。


だが。


世界は確実に削られていた。


(次話へ)


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