冒険者の朝と資金稼ぎ
硬いベッドだった。
だが、不思議と体はよく休まっていた。
オルハはゆっくりと目を開ける。
見慣れない天井。石造りの部屋。昨夜の出来事が、少しずつ頭の中で整理されていく。
(……よく寝られたな)
体を起こし、軽く肩を回す。違和感はない。むしろ、いつもより調子がいいくらいだった。
簡単に身支度を整え、階段を降りる。
外に出て、宿の裏手にある井戸へ向かった。
桶で水を汲み、顔を洗う。
冷たい水が肌に触れ、一気に意識がはっきりする。
(この世界でも、水はちゃんとしてるな)
軽く息を吐き、タオルで顔を拭く。
そのまま食堂へと向かうと、すでにユイが席に座っていた。
「おはようございます」
オルハは軽く声をかける。
ユイは顔を上げ、小さく頷いた。
「おはようございます」
そしてまた、手元に視線を戻す。
その指先では、カードが出たり消えたりしていた。
ギルドカードだ。
手のひらに現れ、消える。
また現れて、消える。
何度も繰り返している。
オルハはその様子を見て、少しだけ口元を緩めた。
(気持ちは分かる)
魂の一部を具現化した、偽造不能のカード。
呪文によって出し入れができる、奇妙で便利な代物。
この世界では身分証の役割も兼ねており、他のギルド登録にも使用される。
紛失することがなく、一定距離離れると自動で体の中に戻る。
不思議な仕組みだが、便利なのは間違いない。
オルハも席に着き、食事を頼む。
運ばれてきたのは、パンに目玉焼き、サラダにスープ、そして焼いた肉。
パンを手に取り、軽く押す。
(……柔らかい)
勝手に、硬いパンを想像していた。だが、実際は違った。
一口かじる。
香辛料の効いた肉と一緒に口に運ぶと、思っていた以上に味が整っている。
(……普通にうまいな)
ユイも同じように食べながら、ふと顔を上げた。
「今日は何をします?」
オルハは少し考え、答える。
「そうですね。街を探索しながら、魔物の肉とか革を売りたいですね」
一口食べてから続ける。
「冒険者ギルドで全部売れるみたいですが、他でも見つけてみます」
少しだけ視線を遠くへ。
「時間があれば常時依頼もやって、資金を増やして……教会で職業を選びたいですね」
ユイは頷く。
「そうですね。職業は早めに取りに行きたいです」
少し身を乗り出す。
「冒険者ギルドも、常時クエストや買取は安いランクの登録料で良かったですね」
思い出すように言う。
「F~Sまでのランクかと思ったら違いましたね」
オルハは苦笑する。
「そうですね。あれはギルドの負担が多いでしょうから、大変でしょうね」
一度、言葉を区切り。
「こちらの世界の冒険者ギルドは――」
少し整理するように続ける。
「常時ランク、いわゆる黄色カードは、低額で登録できて保証金も不要の自由市場です。薬草や素材を買い取る“買取所”ですね」
ユイは頷きながら聞いている。
「誰でもリスクなく日銭を稼げる仕組みです」
さらに続ける。
「赤・銀・金の三段階ランクは、登録料も高額で、受注時に報酬と同額以上の保証金か、現地の保証人が必要になります」
ユイの眉がわずかに上がる。
「失敗すれば保証金は半額か全額没収。三回失敗で三ヶ月、連続失敗で一年の同ランクの受注停止」
オルハは淡々と言う。
「時間の罰もあります」
ユイは小さく息を吐いた。
「なかなかシビアですね」
オルハは肩をすくめる。
「日銭を稼ぐなら、今の段階は常時ランクの方がいいですね」
ユイは少し考えてから言う。
「でも、お金持ちならすぐに高ランク依頼もできますよね」
オルハは首を横に振る。
「そうでもないと思いますよ」
落ち着いた声で続ける。
「保証金が没収される可能性がありますから、金持ちでも無理はしないでしょう。自分に合った依頼を選ぶはずです」
ユイは納得したように頷いた。
食事を終え、オルハは軽く手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
ユイも続く。
「ごちそうさまでした」
椅子から立ち上がり、オルハが言う。
「街を回りますか」
ユイは笑って頷いた。
「はい」
二人は宿を出て、街へと繰り出した。
市場は活気に満ちていた。
肉屋、野菜、布、道具。様々な店が並び、人の声が絶えない。
ユイは相変わらず棒を使いながら、街の人に話を聞いて回る。
「この人です」
指さされた相手にオルハが話しかけると、必要な情報がきちんと返ってくる。
(……本当に当たってるのか?)
半信半疑のまま、しかし結果は悪くない。
肉屋では魔物の肉を買い取ってもらい、革製品の店では革を売却する。
最初に倒した魔物は、思っていたよりもいい値段になった。
(……これならやっていけるかもしれないな)
ギルドでは、魔物・植物・鉱物の本を購入する。
知識は必要だ。
その後、二人は顔を見合わせる。
「狩り、行きますか」
「そうですね」
オルハが頷き、空間移動で最初の場所へ戻る。
そこからは、ひたすら狩りだった。
夕方まで。
無駄なく倒し、解体し、回収する。
日が傾く頃には、それなりの量になっていた。
再び街へ戻り、ギルドで全て売却する。
手間はかからないが、その分価格は少し安い。
(まあ、楽な分仕方ないか)
オルハは内心で納得する。
ふと、ユイが言う。
「魔法鞄って、この世界でも普通に売ってるんですね」
オルハは頷く。
「容量が多いものは高額ですが、小さいものなら誰でも買えるみたいです」
ユイは少し考える。
「なるほど……」
その後、二人で相談する。
「当面は、最初の場所で狩りですね」
「そうですね。魔物が減るまでは、あそこを狩場にしましょう」
意見は一致した。
そしてユイが言う。
「明日は教会を探して行きましょう」
オルハも頷く。
「そうしましょう」
その日は、少し良い宿にグレードアップした。
部屋に入り、体を休める。
昨日よりも、確実に一歩進んでいた。




