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田舎のヒキニートおじさん、長寿になったので異世界に行く 〜新天地で同郷の女の子に目をつけられた〜   作者: イシクラゲ
第1章 城壁都市編

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城壁都市と冒険者の始まり




「……すごい城壁ですね。延々と続いていますよ」


歩きながら、ユイが思わず見上げる。


視界の端から端まで、巨大な壁が続いていた。高く、厚く、圧倒的だった。


近づけば近づくほど、その巨大さは現実味を増していくのに、同時に現実離れもしていく。


地球の建造物とは、明らかに違う。石でできているはずなのに、ただ積み上げられたものには見えない。


そこには人の手だけではない、別の力が染み込んでいるようだった。


オルハも足を緩め、壁を見上げる。


二人は並んで歩きながら、そのあまりの規模に、しばらく言葉を失っていた。


ユイが感嘆を滲ませた声で言う。


「これは日本では見れない光景ですよね。世界でも見れないかも」


オルハは小さく頷いた。


「そうですね。魔法がすごいからできるのでしょうね。この中に街があるのでしょうね」


そのまま目を細め、記憶を探るように続ける。


「千年前の知識では、ここには何も無いはずです。私の知人がこの辺を根城にしていたので、人とか居なかったはずです」


一度言葉を区切り、城壁の向こうを思うように視線を向けた。


「知人が居なくなったので、街ができたのでしょう」


ユイはその言葉を聞きながらも、別の不安が頭をもたげてきたらしい。城壁を見上げていた顔が、少しだけ曇る。


「オルハさん、宝は大丈夫でしょうか」


声音が少しだけ真剣になる。


「こんなに大きな街があるなら、人も多そうです。宝とか、もう見つけられていませんか?」


オルハはすぐには答えず、少し考えるように口元を引き締めた。


「知人は結界を張って置いたと、誰も入れないようにしたとは言っていました」


だが、そのまま楽観はしなかった。


「ただ、宝がまだ残っていたらやると言われたので、結界を壊されて無くなっている可能性もありますね。千年経っていますし」


その言葉に、ユイは露骨に肩を落とした。


「うわ……無いのはショックですよ」


両手を少し開いて、恨めしそうに城壁を見る。


「もう宝の山に飛び込んで、泳いでいるところまで想像していたのに」


オルハは思わず笑った。


「ははは。まだ有るといいですね」


その落ち着いた返しに、ユイはじっと横目でオルハを見る。


「オルハさん、余裕ですね」


そして、ふと別のことに気づいたように視線を下へ滑らせた。


「てか、オルハさんって金持ちですか?」


オルハが少しだけ首を傾げる。


ユイは指を向けるように言った。


「その時計とか、王冠の時計ですよね。お高いでしょ。着ている服も国内で有名なアウトドアメーカーですよね。靴も高そうな登山靴ですか?」


改めて見れば、たしかにオルハの持ち物はどれも妙にしっかりしていた。こんな状況なのに身なりに余裕がある。そこに気づけば、突っ込まずにはいられない。


オルハは少しだけ気まずそうにしながらも、隠すことなく言った。


「まあ……予知能力でロト7を十二億当てましたので」


ユイの動きが止まる。


「うは、またチートですか」


顔を上げたと思ったら、呆れと羨望がないまぜになった表情になる。


「まじですか。うらやましいですよ」


そして、すぐに想像が飛ぶ。


「この世界でも宝くじがあればいいですね。ウハウハですよ」


自分で言って、自分で少し笑う。


「はははっ」


オルハもつられるように苦笑した。


「有ったらいいですね」


そして、気持ちを切り替えるように前を見る。


「街に入ったら、魔物の素材を売れそうなギルドを探しましょうか。宿代と食事代ぐらいになってほしいですね」


ユイも真面目な顔に戻った。


「そうですよね。野宿は嫌ですね」


少しだけ腕を抱くようにする。


「まあ、結界張れば安全ですが、最悪野宿でもしかたありません」


そこまで言ってから、考えるように顎に指を当てた。


「野宿するなら、出発地点に戻ってから野宿でもいいかも。あそこなら魔物以外は誰もいませんよ」


オルハは頷く。


「そうですね。そうならないように素材を売りましょう」


話しているうちに、さらに街へと近づいていく。


遠くからでも圧倒的だった城壁は、近づくほどに威圧感を増した。


見上げる角度がきつくなり、壁というより崖のように感じられる。


しかもただ高いだけではない。


空気が違った。


肌に触れる空気の密度そのものが、うっすらと変わっている。


ユイが目を細める。


「すごく高い城壁ですね。地球なら世界遺産ですよ」


そこでふと、何かに気づいたように表情を引き締めた。


「それに、結界も張っていますね」


オルハも周囲を見回した。


「本当にすごいですね。この都市全体に結界ですか?」


ユイはその場で立ち止まり、感覚を確かめるように目を閉じたあと、深く息を吐いた。


「多分そうでしょう。すごいですよ」


次に目を開いたとき、その声音には本物の感嘆があった。


「結界のプロの私が褒めるぐらいすごいです。これだけの大きさをどうやって維持してるのでしょうね」


オルハもまた、門の方へと視線をやった。


「そうですね。すごいエネルギーが必要でしょうね」


城門は近くで見ると、さらに巨大だった。人も荷車も、小さく見えるほどだ。その前には列ができている。


「城門もでかいですね。列ができているので、通行税とかですかね」


少し考えたあと、森の方に視線を動かす。


「物納ができればいいのですが……あっちの森に入り、そこから空間移動しましょう」


ユイはすぐに頷いた。


「了解」


二人は街道から少し外れ、森の中へと入る。人目がないことを確認し、オルハがユイに合図を送る。次の瞬間、景色が揺らぎ、足元の感覚がずれる。


一瞬のあと、二人は都市の中に立っていた。


石畳が整然と敷かれ、通りは思った以上に清潔だった。鼻をつく悪臭もない。空気は流れ、道の脇も整えられている。


オルハが辺りを見回しながら言った。


「中も綺麗ですね。下水とかもちゃんとしてるのでしょうね」


そして、少し苦笑する。


「中世ヨーロッパみたいに糞尿がその辺にあったら最悪でしたよ」


ユイは即座に顔をしかめた。


「うは、そうですよね」


嫌そうに首を振る。


「そんな場所、私は無理です。森の中で暮らしますよ」


オルハは小さく笑ってから、通りを見渡す。


「誰か話しやすい人を探して、ギルドの場所を聞きましょう」


ユイは不思議そうに首を傾げた。


「そうですね。でも何で話しやすい人なんですか。その辺のおじさんでいいじゃないですか」


オルハは少しだけ視線を逸らす。


「いやー……私、最近までヒキニートでして」


言いにくそうに、しかし誤魔化さずに続ける。


「対人恐怖までではないのですが、苦手です」


それを聞いて、ユイの表情が少し和らいだ。


「そうなのですね」


そして、自分のことのように自然に言う。


「私も小五から学校に行かず、引き篭もりでしたよ」


軽く笑うが、それは無理に明るくしているような笑いではなかった。


事実をそのまま置いたような、そんな言い方だった。


「私が話せれば良かったのですが……」


そう言ってから、何かを思いついた顔になる。


「では、私の占いで探してあげます。結構当たるのですよ」


そう言って、持っていた棒をぽとりと倒す。転がった棒の向きを見て、すっと指をさした。


「あの人です」


指先の先には、いかつい顔をした中年の男がいた。


オルハはじっとその男を見てから、ユイの横顔を見る。


「えーーーと……それ、適当ですよね」


疑いが顔に出ていた。


「占いではないですよね?」


ユイは胸を張った。


「そう見えるかも知れませんが、今までこれで上手いこといっています」


自信だけは妙にある。


「大丈夫ですよ。ちょっといかついおっさんですが、きっと優しい親切な人ですよ」


そして、背中を押すように手を振った。


「早く行ってきてください」


オルハはまだ半信半疑のままだったが、結局はうなずいた。


「ホントですか。じゃー聞いてきます」


そうして恐る恐る声をかけてみれば、男は見た目に反して親切だった。


ギルドの場所も、今の時間ならまだ買取が間に合うことも、丁寧に教えてくれた。


教えてもらった場所へ向かいながら、オルハがぼそりと言う。


「その占い、本当なのですか。たまたまいい人だったのではないのですか」


ユイはすぐに返す。


「いやいや、信じてください。本当にいい人だったでしょ」


オルハは少しだけ笑った。


「そうですね」


やがて目当ての建物が見えてくる。


「あー、着きました。ここですね。入りますか」


ユイは素直に頷いた。


「はい」


二人で中へ入る。


ギルドの中は活気があり、冒険者らしき者たちの気配があちこちにあった。


だが、今はそんな空気を眺めている余裕はない。


オルハがカウンターの男性に声をかけ、買取をしてほしいと伝える。


魔物の爪と牙だけだと説明し、現物を見せる。


するとギルドカードの提示を求められた。


まだ入っていないと伝えると、登録の説明を受ける。


登録料が必要だと言われたが、買取金額から差し引いていいかと尋ねると、問題ないと言われた。


そこで二人はそのまま登録することになった。


手続きを終え、ようやく金が手に入る。


決して大金ではない。だが、今の二人には十分すぎるほど心強かった。


さらに、安めで安全な宿まで教えてもらい、そのままそこへ向かう。


宿に入って、ようやくひと息ついたところで、オルハが静かに言った。


「良かったですね。そこそこの金額になって、宿で寝れます」


ユイは嬉しそうにギルドカードを掲げた。


「そうですね」


目をきらきらさせる。


「これで憧れの冒険者になれました」


その顔には、さっきまでの疲れを押しのけるほどの喜びがあった。


そのまま宿で食事をして、二人は部屋で休むことにした。


別れる前、ユイが確認するように言う。


「明日の朝八時に下で会いましょう」


オルハも頷く。


二人とも時計とスマホを持っていたので、その点は助かった。


異世界の最初の夜が、ようやく落ち着いて始まろうとしていた。





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