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田舎のヒキニートおじさん、長寿になったので異世界に行く 〜新天地で同郷の女の子に目をつけられた〜   作者: イシクラゲ
第1章 城壁都市編

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封印の奥と遺されたもの



朝から、オルハとユイはドラゴンの根城を観光に来ていた。


まだ空気の冷たい時間帯。街の喧騒も遠く、人気の少ない時間を選んでの移動だった。

空間移動で一気に移動してきたため、道中の苦労は一切ない。ただ、視界が切り替わった瞬間――二人は思わず足を止めた。


足元に伝わる感触、風の向き、光の強さ――すべてが一瞬で変わる。

そして、その変化以上に――目の前の光景が、あまりにも異質だった。


「……これは」


言葉が自然と漏れる。


そこには、言葉で表すにはあまりにも規模が大きすぎる光景が広がっていた。

広大なクレーター。周囲はぐるりと円を描き、その中央だけがぽつりと盛り上がっている。


まるで、巨大なドーナツのような地形だった。


風が吹き抜けるたびに、乾いた土の匂いが鼻をかすめる。

視界の端から端まで、同じような荒れた地形が続いている。

人の気配はほとんどない。静かすぎるほどの空間に、かつてここで起きたであろう激戦の残滓だけが、薄く残っているようだった。


「なんか……すごいですね」


ユイは目を細めながら、中央の盛り上がった山を見つめる。

その視線の奥には、ただの感嘆ではない、警戒の色がわずかに混じっていた。


「広大なクレーターがあって、その中央だけ山になっている……全体がドーナツみたいですね」


少し言葉を探すようにしながらも、その異様さを言い表す。


「多分、中央は結界が張ってあって無事だったのでしょうね」


オルハも同じ方向を見ながら、静かに言う。


「どれだけの攻撃をしたら、こうなるのでしょうか……」


その言葉に、ユイは小さく息を呑んだ。


「これは……メテオですかね」


ぽつりと、しかし確信に近い響きで呟く。


「こんな魔法攻撃をできる人が、この世界にいるのですね。……怖いですね」


視線は景色に向いたままだが、その声にはわずかな震えがあった。

想像してしまったのだろう。この光景を生み出した存在の力を。


「そうですね」


オルハは短く返すが、その目は冷静だった。


「なるべく争わない方向でいきたいですね」


言葉は穏やかだが、そこには確かな現実認識があった。


少しの沈黙の後、ユイが視線を巡らせる。


「オルハさん。ここを歩いて外周を一周するのに、何日かかりますか?」


軽い疑問のようでいて、その実、距離と規模を測ろうとしている。


「いや……どうなのでしょうか」


オルハは顎に手を当て、少し考える。


「数日はかかるのではないですか。道は整備されていますが……私は回りたくないですね」


その言い方に、ユイは思わず苦笑する。


「私も嫌です。でも……ここから中央なんて、ただの山にしか見えませんよ」


少し身を乗り出すようにして、目を凝らす。


「近くまで行かないと、よく分からないですね」


「ですね」


オルハも同意する。


「ここから内側は立入禁止ですからね。でも……これはこれで絶景ですよ」


言いながらも、その視線は中央から外さない。


「まー、そうですけど……」


ユイは少し唇を尖らせる。


「根城なら近くで見たいですよね。私の宝があったのだから……これならクレーター観光ですよ」


その言い方に、オルハは軽く笑う。


「ハハハ、そうですね」


周囲を見渡しながら続ける。


「観光名所になっていますが、人も少ないですね。警備もほぼいないですね」


「城壁都市からここまで距離ありますし」


ユイは肩をすくめる。


「山の頂上まで来るの、大変ですよ」


その言葉に、オルハは一度頷いたあと、ふと表情を変えた。


「では、いきますか」


声の調子がわずかに変わる。


「少し探したい所があります」


ユイはその変化を感じ取り、首を傾げる。


「何かあるのですか?」


「宝探しです」


あっさりと返ってきた答えに、ユイの目が一瞬で輝いた。


「まじですか? 宝はここにあったのでは?」


「あれはドラゴンの宝ですね」


オルハは首を横に振る。


「違う宝を探しにいきます」


「うわ……いいですね、宝探しですか」


一歩前に出て、期待を隠さない声で続ける。


「で? 場所は分かるのですか?」


「だいたいの方角は分かります」


その言葉に、ユイは小さく拳を握った。


――そこからは、断続的な空間移動の連続だった。


風景が切り替わる。

岩場、斜面、崩れた地形。


そのすべてを飛び越えるように移動しながら、オルハは感覚を研ぎ澄ませていく。

何かを探るように、何度も視線を巡らせる。


数時間後。


「……たぶん、ここですね」


ようやく足を止める。


ユイも周囲を見回すが、見えるのはわずかに窪んだ地形だけだ。

目立った構造物は何もない。


「誰の宝があるのですか?」


その問いに、オルハは静かに口を開く。


「宝……というより、装備ですね」


少し間を置いてから続ける。


「二千年前くらいに、当時の勇者と聖女たちがここでドラゴンと戦ったのですよ」


風が止まり、空気がわずかに重くなる。


「そしてドラゴンが勝ち……その勇者たちの亡骸を洞窟に入れて、入口を塞ぎ、結界で封印したみたいです」


ユイは思わず声を上げた。


「おぉ……だからここも少しクレーターみたいに窪んでいるのですか」


納得したように足元を見る。


「さて、ユイさん」


オルハが振り返る。


「占いをお願いします」


「お任せください」


ユイは胸を張る。


「プロの占いをお見せします」


地面に棒を立て、軽く倒す。

転がった先を見て、迷いなく指を差した。


「こっちです」


「ありがとう。いきましょうか……ここですかね」


オルハはその方向へ進み、土魔法で斜面に手をかざす。


岩と土が静かに崩れ、押しのけられていく。

やがて、黒い口を開けた洞窟が姿を現した。


オルハは一歩前に出る。


わずかに目を細め、洞窟の入口に残る見えない層を見極める。

空気の歪み――わずかな違和感。


「……残ってますね」


小さく呟くと、手をかざす。


「解除」


その一言と同時に、空間に張り付いていた結界と封印が、静かにほどけていく。

音もなく、しかし確かに――何かが消えた感覚があった。


「これで入れます」


振り返って言う。


「中に入りましょう」


「はい」


オルハは手のひらに火を灯す。

狐火――黄色の揺らめく炎が、周囲を淡く照らした。


その光に導かれるように、二人は洞窟へ足を踏み入れる。


中はひんやりとしていた。

湿った空気と、長い年月を感じさせる静寂。


「……骨が残っていますね」


ユイが足元を見て言う。


「そのままな感じですね」


崩れずに残った白い骨。装備の一部。

時間が止まったような空間だった。


「そうですね」


オルハも静かに答える。


「二千年経っているとは思えないですね。条件が良かったから残っていたのかも」


ユイは少しだけ表情を引き締める。


「ここ……鎮魂と浄化、しておきますよ?」


「お願いします」


その言葉を受け、ユイは静かに目を閉じた。


空気がわずかに震える。

見えない何かが、ほどけていくような感覚。


やがて、重く沈んでいた空気が、わずかに軽くなった。


「……終わりました」


ユイが目を開ける。


そして、近くの遺体の装備に視線を落とした。


「オルハさん。この人の装備、魔法職の装備ですよね?」


手に取るように確認しながら言う。


「これ……貰っていいですか?」


「杖があるので、魔法職なのでしょう」


オルハは頷く。


「それ、ユイさんの装備にしてください」


その言葉に、ユイは静かに息をついた。


「……ありがとうございます」


その声は、少しだけ落ち着いていた。


他の遺体からも、装備を回収していく。

勇者に聖女。

タンク装備、槍装備――それぞれ役割の違う装備が残されていた。


袋の中には、金貨も少し見つかった。


すべてを回収し終えた後、二人は再び空間移動でその場を離れた。


次の瞬間には、見慣れた宿の一室に戻っている。


静かな部屋の中で、さきほどの洞窟の空気だけが、まだどこかに残っているような気がした。

それは、過去の戦いの余韻か、それとも――これから先に繋がる何かの気配か。


二人は言葉を交わさず、しばらくそのまま立ち尽くしていた。




本日、新しく短編を投稿いたしました。

タイトル:『古の大賢者の弟子』

お時間のある際に、ぜひご一読いただけますと幸いです。

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