ひまわり畑
見慣れた白い館が見えてきた。気持ちがはやる。
黄色い向日葵畑の向こう側にダグラスがいた。
陽を受けて明るく輝く金髪、真っ直ぐ伸びた背中。国王らしからぬラフな格好で、何か持っている。農作業の途中らしい。
その姿に向かって駆け出した。
楽園の広大な草原と森を抜けてきた足は疲労でパンパンだが、最後の力を振り絞った。
「ダグラスっ」
振り返ったダグラスが驚いた顔をした。皿のように目を見開き、持っていたひしゃくをポトリと落とした。
足がもつれて転びそうになった私を慌てて受け止めた。
「良かったっ、無事で」
「アイリーナ、どうしてここに?」
「配信、四週間も無かったから。何かあったのかと思って。良かった、元気なのね」
「配信……えっ、あっ、見てたのか?」
「ナリィセイドのアパートで見てたわ。『トマトジュースを作ってみた』や『女性でもできる護身術講座』や『ハンカチで鳩を作る』、クローバーの花冠の回から見ていたの」
ダグラスは唖然として、目をパチクリさせて狼狽えた。
「会いたかったわ。会いたくて来ちゃった」
ああそうだ、会いたかった。楽園で暮らしているときも、楽園を出てからも、ただダグラスに会いたかった。
それを伝えることに怯えていた。
厄災級の魅了に毒された「愛している」は脅威でしかなく、忌むべきものだった。魅了を失ってからの「愛している」は疑わしく信用ならなかった。
愛を恐れ愛を憎み、逃げ回っていながら誰よりも追い求めていたのだ。
「もう聖母ではないし、魅了もない。身分も地位もない、ただの女が軽々しくあなたに会って良いとは思っていないわ。だからこれで最後にするわ。突撃訪問してごめんなさい」
会いたくて来て、会えた。ダグラスの無事を確認できた。そのことを素直に伝えられた。これまでの私にしては上出来だ。
「私も会いたかったよ。アイリーナ」
ダグラスが言った。泣き出す一歩手前のような顔で微笑んだ。
「ありがとう、会いに来てくれて。聖母でなくていい、王妃にならなくていい。ただのアイリーナとして、私のそばにいてくれ」
目を見開いた。思いがけない言葉に耳を疑い、ゆっくりと胸で咀嚼すると、自然と涙が零れた。
「そばに……いたいわ。ダグラス……」
全てを言い終えないうちに、ダグラスの両腕に包まれた。ぎゅっと抱擁される。
聖母だったときの恐れはない。壊れものに触れるようではない、その力強さに安心した。
憎いこの人を愛していると、やっと言える。




