夏野菜
「今日は夏野菜の種まきに来たよ」
見覚えのある景色をバックに、随分ラフな格好をしたダグラスがスコップ片手に話しかけてきた。
「楽園にいるの?」
毎日通信の名残でつい話しかけてしまったが、これは個人間通信ではなく、一斉配信用の受信だ。こちらは受信するのみで、返信はできない。
私の動揺をスルーして、ダグラスは柔和な笑みを浮かべたまま話を続けた。
「えーと、キュウリでしょ。それにトマトとナスにトウモロコシにピーマン……ちょっと欲張りすぎたかな?」
言いながら歩いて移動する途中で足を止めた。
「ここ、いい感じのクローバー畑になってるね。今はクローバー畑で、秋にはレンゲ畑になるよ。枯れたら耕して、土の肥やしにするんだ」
そうだ、一年を通してヨゼフィンとアンフィーサがそうしていたっけ。二人が手間をかけて作った楽園の植物園や畑があれからどうなったのか、気にかかっていた。
もう手をかけられなくなって荒れ果てているのだろうと思っていたので、変わらない風景に、その懐かしさに胸が痛くなった。
「クローバーの花、好きなんだ。摘んでもいいかな」
春の野原で明るい陽射しを浴びて、笑うダグラス。こちらは夜ということもあり、まるで別世界だ。
ダグラスはクローバーの花を摘み取ると、思いついたように花冠を編み始めた。器用に手際よく編まれたそれを両手で持ち、配信している鏡に近づいてきた。
伸びてきた両手が近すぎてフレームアウトした。
「ふふ、よく似合うよ」
春色の瞳が細められた。どうやらダグラスを映す配信鏡を持っている人物の頭に花冠を乗せたようだ。
多分、ヨゼフィンかアンフィーサなのだろう。私が配信するときもよく二人が手伝ってくれた。影のように気配を消し、無駄に喋らず、身辺警護も兼ねている。
「じゃあ今日はこの辺で。畑の芽が出た頃にまたみんなに見せたいな。朝晩はまだ肌寒いから、体調管理に気をつけてね」




