鏡
エリオスから返された受信鏡を持ち帰った。
「返す」と言われても元々私の物ではないけれど。
これはエリオスの従兄弟のデクスター閣下が、検挙した闇商人から没収した物だ。スパイ活動を危惧して私の配信を聴き続けた結果、すっかり魅了に毒された閣下に、拉致されたことを思い出す。
あれからもう二年は経つ。デクスター閣下も無事、回復しただろう。この配信鏡はエリオスに取り上げられ、今ではもう何も映すことがないただの手鏡だ。
「返す……」
としたら、私ではなくアルディア国王であるダグラスに返すべきだろう。
この国へ来てからダグラスからの干渉は一切ないが、借りているアパートのオーナーとダグラスの代理人は通じているため、私の情報は常に把握しているのだろう。
住所はもちろんのこと、どこで働いているのかも。エリオスがロズペタに私を訪ねてきたのも、ダグラスに聞いたからだと思う。
「まあ、いっか……もう意味のない鏡だし」
大量生産されて多くの国民が所持している、アルディア国内では特に珍しくもない鏡だ。聖母アイリーナの日々の配信が見られてこそ価値があったのに、その価値を失わせて無用の長物にしてしまったのは、私だ。
ダグラスを、アルディアの全国民を裏切った罪深さの象徴として、捨てずに手元に置いておこうと決めた。
今の平凡でささやかな幸せは、その罪の上に成り立っている。それを忘れないために。




